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いつも律に理不尽な睨みを効かせてくる女の子。そんな彼女が放課後の、誰も居ない教室で話しかけてくるなんて絶対によい話でないことは確かだ。
「アンタさ、なんでいつも由伊くんに構ってもらってんの。弱みでも握ってるわけ」
まさかのセリフに、返す言葉が思い浮かばない。てか寧ろ、由伊の弱みってなんだ。あるのか、あんな完璧そうな人にも。
「ホモなの?アンタ」
顔を近づけて言われ、思わず一歩下がる。もう教室には誰もいない。何かをするのなら絶好のチャンスそのもだ。……無視して帰ろう。
そう決めて、鞄を持ち直し教室を出ようとすると、ぐいっと腕を強く掴まれた。
「ちょっと、無視しないでよ」
「……なに」
諦めて応えると、彼女は嫌な笑みを浮かべて言った。
「着いてきて」
「……はぁ?」
女の子の手を振り払えず、ずんずん力強く進んでいく彼女の後ろを引っ張られながら着いていく。
「ねぇ、どこ行くの……っ」
焦る律の言葉を無視し、彼女はある教室の前で立ち止まる。
「ここ、入って」
教室の扉を開け、暗い室内が視界に広がる。僅かに埃くささが鼻につく。恐らく何年も教師としては
使われていないんだろうな、という雰囲気にどくり、と心臓が嫌な脈を打つ。
「……入りたく、ない」
聞き入れてもらえるだなんて思ってはいなかったけれど、心が危険信号を出している以上足が進められなかった。ここは
嫌だ。たたでさえ過去に何がなくとも好んで入りたいとは思わないだろう。訴えればあるいは……だなんて淡い期待もむなしく律の力ない呟きに、苛立ちを隠そうともせずちっと舌打ちをした彼女は掴んでいた律の腕を思い切り引っ張り、闇が広がる教室の中へと放り込んだ。
その拍子で何かに躓き、そのまま埃っぽい床に倒れ込む。
「い、って……」
体を打ち付け痛みに少し呻き、扉の外に立つ女の子を見上げると、彼女は笑いながら言った。
「ホモはホモらしく、可愛がってもらいなよ宮村」
「……え……?」
言葉の意味が分からぬまま茫然とその場で硬直した。彼女が扉を閉めてガチャリと鍵をかけその場から立ち去る足音だけははっきりと認識できた。室内は遮光カーテンが閉められており、唯一開けられ僅かながらにも光が差し込んでいたドアが女の子によって閉められてしまったせいで現実から遮断された気分になってしまい余計に心臓の音が速くなる。
閉じ込め、られた……。
「お前が、宮村?」
絶望に苛まれてあわてふためく暇もないまま、不意に後ろから男の声が聞こえ、ばっと振り向く。
良くない状況だ、まずい、どうしよう─……
「俺、宮村じゃない……田中……」
「いや、さっき宮村って呼ばれてたろ」
男はハハッと軽く笑い飛ばす。咄嗟についた嘘で逃れられるはずもなく、がしりと肩を掴まれ、ダンッと音を立てて床に押し付けられた。
「い゛っ……」
暗闇に目が慣れて、人の顔がぼんやり見えるようになる。どうやら、男が複数居るようだ。
なんで、こんなことに。
「俺たちさ、お前のこと犯せばあの女にヤらせてもらえんだよね」
「まぁ、男とヤるとか普通にキモイから勃たねーと思うけど」
ギャハハと下品な笑い声が教室内に響き、律は変な汗が噴き出してくる。
「……じゃあ、離せよ」
必死に声を絞り出すと、男は律の両手を床に縫い付け「はぁ?」と馬鹿にしたように言う。
「っせーよ。黙ってろ」
「やめろっ!離せ!」
男達は恐らく三人程居て、後ろにいた二人が俺の体を押さえつけ、残りの一人が律の服を脱がしにかかている。ブレザーを脱がされ、ベルトを外されズボンと一緒に雑に下ろされる。一瞬だけ隙ができたので、男の顎を殴り立ち上がろうとしたが、
「うぐッ……」
顔を思い切り床に叩きつけられ、左頬がじんじんと痛む。頭を揺さぶられたせいで、吐き気もしてきた。
「やめ……っ」
「大人しくしてろよ、めんどくせーな」
下着を脱がされそうになり、精一杯抵抗した。きっと一般男子よりは性関連に疎い方だと自分では思っていた。多少、最低限の事は知っているし、経験がないわけではなかった。果たしてアレをカウントするのであれば……の話ではあるが。
ただその経験を持ってしても律の性行為に関しての知識は曖昧で『暴力』であることしか分からない。
嫌なのだ、どうしても、触られたくない。たとえ将来好きな人ができたとしても律にはその人を触れるかすら危ういものなのに、こんな得体のしれない人間にどうして人生で、何度も、何度も、何度も、身体を暴かれなければならないのだ。男だからとか、女だからとか、そんなものは関係ない。
人として踏み込まれたくないのだ。
自分でさえ触ったことのない身体の内部なんか触れられたくない。
─……こわい
空き教室内に放置されていた今は使われていない机や椅子に散々体をぶつけあちこちが痛む。
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