10人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おやすみ。安心してよーくおやすみ……」
カーテンに映し出されたお婆さんの影は風もないのになぜかゆらゆらと揺れながら、やはりベッドで寝ている入院患者を寝かしつけようとしています。
そのベッドに寝ているのは、わたしも同室なので仲良くしている、品の良い高齢のご婦人です。
「……おやすみ。安心して寝ていいんだよ? ゆっくりとよーくおやすみ……」
あのお婆さんに寝かしつけられたら、永遠の眠りについてしまう……。
なんとかして助けなければ…という気持ちにも駆られましたが、それよりも恐怖の方が何倍も勝りました。
わたしは頭からすっぽりと布団をかぶり、ギュっと硬く目を瞑りながら、
消えて! 早くどっかへ行って!
と、心の中で願い続けました。
それからどれくらい経ったかも憶えていませんが、気がつけばあの声は聞こえなくなり、部屋の中はシーン…と静まり返っていました。
……ハァ……よかった。ようやくいなくなってくれた……。
やっとわたしは胸を撫で下ろし、安堵の溜息を吐くとともに布団から顔を出しました。
……が、それはわたしの油断でした。
「ひっ…!」
なんと、布団から出したわたしの目と鼻の先に、あのお婆さんの皺くちゃの顔があったのです!
「あんたの番はまだだから、あんたは起きててもいいよ」
耳元でそう告げるお婆さんの声を聞いた瞬間、わたしは気を失いました――。
最初のコメントを投稿しよう!