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さて、その翌日の夜のことです。
またわたしは深夜の二時頃に目が覚めてしまい、やはり退屈しのぎにジュースを買いに行くことにしました。
前回同様、静かに部屋を抜け出し、階段で一階ロビーに下りて、ジュースを飲んで帰ってくる…という、ちょっとした夜の冒険です。
すると、その帰り道、わたしはまたしてもあの声を聞いたんです。
「――おやすみ……安心してよーくおやすみ……」
この前と同じく、やはり三階へ戻ってきた時のことです。
あ! あのお婆さんだ! 今夜も子供を寝かしつけてる気になってるんだ……。
聞いた憶えのあるその声に、わたしはその部屋の前を通りながら、すぐにあのお婆さんだと理解しました。
……あれ? 昨日は301号じゃなかったかな?
でも、今回はこの前と部屋が違ったんです。
前は階段を上ってすぐの301号室だったのですが、今度はそのとなりの302号室です。
気になったんで、やっぱり昨夜と同じようにこっそりと引き戸を開けて部屋の中を覗いてみます。
「……おやすみ……ゆっくりとよーくおやすみ……」
案の定、それは昨夜見たお婆さんでした。
でも、部屋が違うので当然といえば当然のことながら、声をかけているのは別の患者さんです。今度はどうやら40か50代くらいの中年の女性です。
昨日のお爺さんだけを息子だと思い込んでるわけじゃないんだ……ていうか、部屋が昨日と違うし、どっちの部屋の入院患者なんだろう? それとも、もしかして徘徊してるの?
昨夜と部屋も声をかけてる相手も違うことに、わたしはその可能性に思い至りました。
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