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その夜、わたしはまたしてもなぜだか二時頃に目が覚めてしまい、やはりジュースを買いに一階まで行ったのですが、その帰り、今度もあの声を聞いてしまったんです。
「――おやすみ……安心してよーくおやすみ……」
今夜はまた別の部屋で、わたしのいる部屋のとなりの303号室です。
念のため、また引き戸を開けてこっそり覗いてみましたが、声の主はもちろんあのお婆さんです。
ベッドで寝かしつけられてる患者はまだ30代かそこそこの男性でした。
あれ? 注意するって言ってたのに、看護婦さん達、気づいてないのかな?
これでもう三回も目撃してしまっていますし、さすがに見過ごすのも悪い気がしてきます。
わたしは仕方なく、自分もうろうろ出歩いてたのバレる覚悟で、ナースステーションへ知らせに行くことにしました。
「あの、すいません。例のお婆さんがまた徘徊してるんですけど。今、303号室にいます」
「え!? ほんと? わかったわ。今行くわね……」
わたしの連絡を受け、夜勤の看護婦さんがすぐに小走りで一緒に303号室へと来てくれます。
「あら? いないわね……」
ところが、戻ってみるとどこにもお婆さんの姿は見当たりません。
「あれ? おかしいな……」
わたしは看護婦さんとともに首を傾げました。
行って帰ってくるのに一分足らず。もしお婆さんが部屋から出て来たのだとしたらわかるはずです。しかも、老人の足でそんなに速く移動ができるものでしょうか?
「ねえ、ほんとにこの部屋だったの? 別の部屋ってことはない?」
「いえ、確かにこの303号室でした。そこの患者さんに声をかけてたんです。どこか物陰にいるのかも……」
勘違いを疑う看護婦さんに、わたしはそう反論しながら他の患者さんの周りやベッドの影なんかも隈なく調べてみましたが、やはりあのお婆さんはどこにも見当たりません。
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