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「他の部屋かもしれないし、とりあえず見廻ってみるわね。こんな時間だし、あなたは自分の部屋へ戻ってて」
なんとも不思議で腑に落ちませんでしたが、念のため、看護婦さんが三階の全病室を見て廻ってくれることとなり、わたしは狐に抓まれたような心持ちで自室へと戻りました。
当然、ベッドに入っても寝つけずに悶々としていると、しばらくしてから看護婦さんがやって来て、やっぱりお婆さんは見つからなかったことを教えてくれました。
おかしい……そんな隠れたり、遠くへ行くような時間はなかったはずなのに……。
「あの、そのお婆さん、どうやら他の患者さん達のことを自分の子供だと思い込んでいるらしく、眠ってるその人に声をかけて寝かしつけようとしているみたいなんです。この階の入院している患者さんの中に、そんな感じのお婆さんとかっていないんですか?」
納得のいかなかったわたしは、この際なのでより詳しくお婆さんの行動を看護婦さんに伝え、気になっていたそのことを尋ねてみました。
真夜中に徘徊し、そんなことをしているくらいですから、それなりに認知症が進んでるはずです。そうした病状の患者さんだったら、看護婦さん達もすぐに見当がつくんじゃないでしょうか?
「それが、あなたに教えてもらって確認したんだけど、今、そういった患者さんは入院してないのよね。他の階にもいないみたいだし」
でも、看護婦さんの答えは意外なもので、彼女自身も怪訝な顔をしていました。
「とにかく、もうどこにもいなかったから、あなたも安心しておやすみなさい。夜更かしは心臓にもよくないわよ?」
いろいろ得心はいかなかったものの、看護婦さんにもそう言われてしまったので、わたしは渋々眠りにつくことにしました。
ところが、その翌朝、あのお婆さんの正体へと繋がる、とんでもない出来事が起ったのです。
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