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それは、朝食の少し前のことでした……。
となりの部屋――つまり303号室の前の廊下がなんだか妙に騒がしくなり、気になったわたしは様子を見に行ってみたのですが、すると、どうやら303号室に入院していた患者さんが亡くなったらしいのです。
このフロアにある病室は全部大部屋なので、わたし同様、そんな重篤な患者さんはいないはずなのですが、まあ、それでも病人ですし、突然の急変というのもなくはないでしょう……。
ですが、慌しく出入りするお医者さんや看護婦さん達の背後からこっそり部屋を覗いたわたしは、その亡くなった人のベッドの位置を見て愕然としました。
それは昨夜、あのお婆さんが声をかけていた男性の寝ているベッドだったのです!
これは偶然の一致なんでしょうか? ……いえ、そんな偶然ってあるものなんでしょうか?
あのお婆さんが声をかけ、寝かしつけていた患者さんが命を落とした……。
もしかして、これまでにお婆さんが寝かしつけていた患者さん達も、みんな同じように……。
不穏な想像をしてしまい、どうにも気になって仕方のなくなったわたしは、看護婦さん達も落ち着きを取り戻したその日の昼食の際、それとないフリをして訊いてみました。
「あ、あの、昨日や一昨日とかもこの三階で亡くなった患者さんいませんでした? 例えば一昨日は301号、昨日は302号で……」
「え? ……ええ。残念だけどね……」
わたしのその質問に、看護婦さんは顔色を曇らせると、どこか言いづらそうにして首を縦に振ります。
「じゃ、じゃあ、もしかして301号はお爺さんで、302号は中年のおばさんじゃありませんでした?」
「……え? ええ。そうだけど、ひょっとして知り合いだった?」
少なからず驚きを覚えながらもさらに突っ込んで尋ねるわたしに、看護婦さんは何か勘違いをしたようでしたけれど、これではっきりしました……驚くべきことに…というよりも案の定と言うべきか、やはり、あのお婆さんが寝かしつけた患者さんは全員亡くなっていたのです。
それじゃあ、あの「よーくおやすみ」というのはただ単に眠らせているんじゃなく、永遠におやすみというような意味だったんじゃ……。
じゃ、じゃあ、あのお婆さんは死ぬ人がわかる予知能力者……いいえ、そんな入院患者はいないっていうし、もしこの世に存在する者じゃないんだとしたら、いわゆる死神か、あるいはあっちの世界へと引っ張っていってしまう怨霊……。
今さらながらにもそのことへ思い至ると、わたしは背中がつーっと冷たくなるのを感じました。
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