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そんな恐ろしいものの存在を知ってしまっては、もう怖くてこんな場所に寝泊まりなんかできません。
でも、幸いわたしは経過観察も良好だったので、明日には退院することになっています。
あと一日でここから離れられる……わたしは何事もないことを祈りながら、なんとか恐怖を我慢して入院最後の夜をやり過ごすことにしました。
これまで同様、この日も真夜中の二時になぜか目が覚めてしまいましたが、さすがにもうジュースを買いに行く気にもなりません。
早くまた眠ってしまおうと目を瞑るのですが、どうしても頭に浮かんでしまうのはあのお婆さんのことです。
今夜もまたどこかの部屋にいるのかな? 今までに見かけたのが301、302、303か……え? これってだんだんに近づいて来てない?
これもまた今さらながらですが、わたしはふと、その法則性に気づいてしまいました。
一夜ごと、部屋番号を1から順に、あのお婆さんは現れているのです!
だとすれば、今日は次の304号……ああ、よかった。なんとかギリギリでわたしの部屋は免れた……。
だんだんこの305号室に近づいて来ているとはいえ、その法則性から考えるのにあと一日はとりあえず大丈夫なはず。
不幸中の幸いにも、そんな最悪の事態を回避できたことにわたしは安堵したのですが……。
……いや、待て。303号はおとなりの部屋だ……そうだ。病院は〝死〟を連想するから〝4〟の付く部屋番号を飛ばすことが多いんだ。
だとすれば、303の次はこの305号室……。
と、その時。
「――おやすみ。よーくおやすみ……」
あの、お婆さんの優しげな声が…いや、今は不気味にしか聞こえないあの声が聞こえてきたのです。
わたしは廊下側にあるベッドに寝ているのですが、その声は左側の、窓辺に面したベッドから聞こえます。
咄嗟にそちら側へ目を向けると、カーテンがかかっているので直接は見えないのですが、そのクリーム色のカーテンを影絵のスクリーンのようにして、非常灯か何かの明かりであのお婆さんのシルエットが浮かんでいました。
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