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「おやすみなんて、言わないで」
『「んあっ、あ、ひあ、、、っんっ…」
「どうした?さっきまでの威勢はどこいったんだぁ?」・・・』
わざとらしい、安っぽい女の喘ぎ声。
テンプレのような感情のこもっていないつまらない男の台詞。
見るものもなく焦点の合わない目で眺めていると、きし、とベッドが少し鳴く。
「ゆい、そんなの見て、面白い?」
腹に心地よく響く低い声が耳元で発せられる。と、同時にどこかひんやりと冷たく長い腕が俺の首あたりに回される。
「つまんないよ。でもこれ以外やってないんだもん」
「ん、まあラブホだからな」
なんだよ、その俺と来たよりも、もっと、
何回も来たことありますみたいな発言。
なんか、すっげー、
「……腹立つ」
「なんでだよ」
くすくすと耳に息がかかり、
ゾクと背筋に甘い電流が走る。
くるりと振り向き、バスローブ姿のイケメンを誘う。
「…ん、ねえ、シよ…?」
バスローブのリボンを解こうとすると、ぎゅっと抱きしめられて俺の手を背中に押さえつけ、止められた。くっそ、この人空手やってたから強すぎだろ、外せねぇ…。
「くぉら、お前明日もガッコだろ。それにゆい。さっきもしただろ」
「でもっ…んむ」
反論しようとしたが、ちゅ、と唇を乱暴に、けど俺が傷つかないようにあてがわれる。
「…っ、へ、へんぱ…っ、ぁ」
しばらく食まれるようにキスをされ、とろとろと意識が液体のようになる。
「…ん、っ、っぷはっ」
「…はぁ、落ち着いたか?」
先輩がぺろりと俺の唇についた唾液を舐め取り、自分の唇も親指できゅっと拭き赤い舌で舐める。
「は、ふ…ぅわ、先輩えっろ…」
「ぶは、うるっせーよ」
「いやほんとに…、ねぇー、余計シたくなっちゃうじゃんかぁぁ…」
「知らんわ」
「せーんーぱーいー」
掴まれて自由を失った腕の先についている指で
すす、と先輩の手をなぞる。
ぴくりと先輩の腕が反応する。お?!
「はーあ、わぁーったよ」
腕を解かれ、ぼす、と布団に投げ出される。
「お?!先輩やる気でた!?」
パチン
柔らかいオレンジ色の光が消え、ベッドサイドの頼りないランプの光だけがゆらめく。
「あれー!!?先輩電気消してシちゃうの!?めっずらしー!!」
「バァカ、オレは電気消してヤんのは嫌ぇだわ」
うすい一枚のタオルケットを俺と自分にかけ、
ぽんぽんと俺の頭に手をのせる。
「っづぁー、やっぱり…ぃ。なんで電気消してヤるのやなの?てかっ!!先輩、俺のこと寝かしつける気だろ!?」
「ぴんぽーん」
先輩、棒読み感隠せよ…。
「やだっっ!!!先輩、俺のこと好きだろ!?お願い!!
俺のお願い、きーてよぉ…」
少し目を潤ませてみる。
「お前のこと好きだからこそ、大事にしたいの。わかる?あと、嘘泣きには引っかからんぞ、オレは」
けらけらと余裕で笑いながらまたバァカと呟かれる。ちっ、ひっかかれよ…。てかなんなの、惚れなおしそうなんだけど。
「ゔーー、先輩ずるいわ…」
「ハハ、先輩だからな。ほら、もう目ぇ閉じな」
そっと先輩が俺の目元を手で隠し、心地よい暗さを作る。
「やだ…、せんぱい、くらくしないで…」
「はいはい、また明日の朝な」
「んん…、また、あした…」
「おう、おやすみ」
すうすうと早くも寝息を立てるゆいのさらさらの前髪に、
オレはそっと、起こさないようにキスをする。
「…オレが電気消してシたくないのは、
お前のかわいい顔を見たいからだよ、バァカ」
エアコンの温度をわざと低くする。
寒い室内は、くっついているとちょうどいい。
「おやすみ、ゆい」
ランプも消えた。
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