13.この火が明るい間、ふたりは

1/1
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

13.この火が明るい間、ふたりは

 永野ふゆと真砂になが住む町に、台風がやってきた。  朝にはほぼ全ての公共交通機関が運休したので、真砂の仕事は早々に休みになった。だがブラック企業と名高い永野の職場は、何時間かかっても出社しろと言うのだ。しかし、永野は午後になっても会社に辿り着かず、結局出勤しなくてよいことになった。そういうわけで今晩は、二人でしっぽりと嵐が通りすぎるのを待っている。 「台風の日って、わくわくするよねえ」 「そう? 子供の頃は学校休みになったりして嬉しかったけど……」 「大人になっても休みは嬉しくない?」 「……大人の休みは、その間の仕事を後からしなくちゃいけないからな」 「あは、夢がないねえ」  真砂はくすくすと笑った。だがその次の瞬間、 「――わっ!?」 「……あ、停電だあ」  急に暗くなった部屋、声を上げたのは永野だけだった。真砂は冷静にスマートフォンのライトをつける。 「ふゆちゃん、大丈夫だからね……ほら!」  カチ、と音がして、ロウソクに火がつけられた。よく見ると防災用のロウソクではなく、普通のアロマキャンドルである。良い香りが漂って――何となく荘厳な雰囲気が生まれる。 「あ、ふゆちゃん。もう一個は火、一緒につけよう!」 「な、なんで?」 「キャンドルサービスみたいだから。結婚式の」  真砂は既にノリノリで、永野の手にチャッカマンを握らせて、その上から自分の手を重ねた。 「キャンドルの火には、幸せの天使が宿るんだって」 「……そう」  世間の風から逃れて、誰に祝われずとも幸せを願うのは、自分達らしいと永野は思った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!