14.わたしの傘、わたしを守ってくれる

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14.わたしの傘、わたしを守ってくれる

「あ、ふゆちゃん! 傘持ったー?」  今まさに家を出ようとする永野ふゆを、同居人の真砂になが呼び止めた。 「え? 雨降ってないけど」 「夕方から雨なんだって」  真砂はぱたぱたと玄関まで追いかけてきて、長傘を差し出した。だが、永野はそれを受けとるのを躊躇う。 「うーん、荷物増やしたくない……」 「じゃあ、折り畳みにする?」  真砂は靴箱の上に置いてあった、折り畳み傘を指す。 「折り畳みも結局、鞄の中でかさばるよね」 「もう! ふゆちゃんの鞄なんか、そもそもいつ使うかわかんない書類でいっぱいじゃない!」  真砂は頬を膨らせて抗議する。だが永野は遅刻寸前なのを言い訳に話を切り上げて、そそくさと飛び出していった。  その行動を、夕方の永野は後悔していた。  真砂の言う通り、午後から怪しくなっていった雲行きは、日が落ちてからひどい雨を降らせていた。何とか自宅の最寄り駅まで辿り着いたが、近場のコンビニの傘は売り切れており、タクシーを呼ぶ余裕もない。永野は結局、どしゃぶりの雨の中を走って帰った。  そして自宅に辿り着き扉を開けると、そこに仁王立ちになっている真砂に出迎えられる。 「……言ったでしょお?」 「はい……」 「ほら、さっさと濡れた服脱いで! お風呂入るの!」 「えっお風呂いれてくれたの?」 「こうなるってわかってたからね!」 「……ごめんなさいぃ」  わかったらさっさと入る! と真砂は永野を急かす。三和土から一歩上がれば手を繋がれた。冷えた体にその温みが際立って感じて、何故か少しだけ永野は泣きそうになった。
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