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16.まるで白馬のお姫様
休日、永野ふゆと真砂になのデートは割と行き当たりばったりだ。前日になんとなく目的を幾つか挙げて(服が欲しい、カフェに行きたいなど)それを満たせそうな場所にあたりをつけてうろうろする。二人の暮らす地方都市は、大きな駅に出れば一通りの買い物が済むので、大体いつも駅までは同じルートである。
その日も勝手知ったる駅の構内で、トイレに行くために待たせていた真砂の元へ、永野は急ぎ足で向かっていた。待ち合わせ場所にいる真砂の姿は遠くからでもよくわかる。永野は、真砂を目を引くくらいの美人だと思っているので。
「……ん?」
その真砂の周囲に、二人組らしい男性が立っていた。何事か話しこんでいる。永野は眉間に皺を寄せた。
これもよくあることだ。
永野はほとんど走って、真砂へと駆けつける。永野の予想が正しければ、真砂はナンパされている。真砂はナンパに流されていいようにされるような弱い女ではないけれど、困っているのは確かだろう。
「――にな、行こう!」
永野は乱暴に真砂の手を取って、歩き出す。真砂は驚く二人に曖昧な苦笑を送ると、永野に連れられるままになった。
「ふゆちゃんありがと! あの人たち、しつこくてさあ」
「ううん、一人にしてごめん。この辺ナンパ多いんだった」
「そうだねえ。でも助けてくれたの、嬉しかったよ?」
「暢気なこと言って……」
はあとため息をつく永野の手が、とくとくと速く脈打つのが、真砂にはわかった。永野だって気が強い訳ではない。勇気を振り絞って助けてくれたのだ。こんな永野が見られるのなら、ナンパも悪くないなあ、なんて真砂は思ってしまったりする。
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