4.お姫様の足音と目覚めのキス

1/1

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

4.お姫様の足音と目覚めのキス

 永野ふゆの仕事は激務だが、一応週休二日制ということになっている。連勤と休日出勤の間に挟まれて、頼りなさげにカレンダーに赤が付いている日を、永野は常に心待ちにしている。だが、休みの日と言っても何をする訳でもない。大抵は一日寝て過ごしてしまうし、今日もそうだった。目を覚ましたのは夕方、玄関の鍵が開く音を聞いてからだ。同居人、真砂になが仕事から帰ってきたのだ。 「ただいま~! ああもう、つかれちゃったよお」  永野は咄嗟に目を瞑ってしまった。出迎えが億劫なわけではない。出来心で。 「ふゆちゃん、寝てるのお?」  リビングにどさどさと荷物が置かれる音が聞こえる。真砂の生活音は騒がしく、永野は彼女が帰ってくると、大抵は目を覚ましてしまう。しかし、それを真砂は知らない。なぜなら、 「あ、またぐっすり寝てる」  永野はいつも狸寝入りをするから。なぜか? 「……お疲れさま、だね」  真砂の柔らかい唇が、永野のものに重なる。しばし触れ合い、ちゅ、と音を立てて離れた。くぅと寝息を漏らす永野を見て、真砂は満足げに微笑む。(このとき永野が薄目を開けているのは気付かれない) 「ご飯出来たら起こしてあげるね」  提案は大変ありがたいが、真砂だって疲れているだろう。食事の準備は手伝いたい。永野は幸せな眠りから起きる決意をする。 「……ん、にな、おかえり」 「あら起こしちゃった。ごめんね?」 「いいよ、ご飯作るんでしょ」 「起きてすぐなのに、ふゆちゃんは食いしん坊だねえ」  真砂の笑顔を見ながら、永野は先程のキスを思い浮かべる。どちらも甘美だ。寝ても覚めても真砂を想う生活を、永野は結構気に入っている。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加