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4.お姫様の足音と目覚めのキス
永野ふゆの仕事は激務だが、一応週休二日制ということになっている。連勤と休日出勤の間に挟まれて、頼りなさげにカレンダーに赤が付いている日を、永野は常に心待ちにしている。だが、休みの日と言っても何をする訳でもない。大抵は一日寝て過ごしてしまうし、今日もそうだった。目を覚ましたのは夕方、玄関の鍵が開く音を聞いてからだ。同居人、真砂になが仕事から帰ってきたのだ。
「ただいま~! ああもう、つかれちゃったよお」
永野は咄嗟に目を瞑ってしまった。出迎えが億劫なわけではない。出来心で。
「ふゆちゃん、寝てるのお?」
リビングにどさどさと荷物が置かれる音が聞こえる。真砂の生活音は騒がしく、永野は彼女が帰ってくると、大抵は目を覚ましてしまう。しかし、それを真砂は知らない。なぜなら、
「あ、またぐっすり寝てる」
永野はいつも狸寝入りをするから。なぜか?
「……お疲れさま、だね」
真砂の柔らかい唇が、永野のものに重なる。しばし触れ合い、ちゅ、と音を立てて離れた。くぅと寝息を漏らす永野を見て、真砂は満足げに微笑む。(このとき永野が薄目を開けているのは気付かれない)
「ご飯出来たら起こしてあげるね」
提案は大変ありがたいが、真砂だって疲れているだろう。食事の準備は手伝いたい。永野は幸せな眠りから起きる決意をする。
「……ん、にな、おかえり」
「あら起こしちゃった。ごめんね?」
「いいよ、ご飯作るんでしょ」
「起きてすぐなのに、ふゆちゃんは食いしん坊だねえ」
真砂の笑顔を見ながら、永野は先程のキスを思い浮かべる。どちらも甘美だ。寝ても覚めても真砂を想う生活を、永野は結構気に入っている。
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