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5.我ら働き者を引き裂くべからず
「あの話は神様がひどいよねえ」
真砂になは、まるで世間話のように溢した。
「でも織姫と彦星が全然働かなくなったからっていうのは、離ればなれの理由になるような」
聞き手の永野ふゆも、労働には持論があった。彼女は何だかんだ働くことが好きだし、労働を尊いと思っている。
「でもでも新婚夫婦なんだから! それで年に一回しか会えなくなっちゃうなんて、クオリティオブライフ爆下がりだよ……」
「確かにそう言われると、やり過ぎかもしれないけど」
永野は苦笑しつつ、伝説に対しても親身になれる真砂を少し尊敬した。
「それでも、年一回でも好きな人に会えるなら、厳しい仕事も頑張れると思うな」
「……まさか、ふゆちゃん。二人の生活費のために嫌な仕事、我慢してたりする?」
真砂は疑いの目で永野を見つめる。
「いや、そこまでないよ。今の仕事、割と好きだし」
「ほんと? ふゆちゃん、思考が社畜だからなあ」
真砂はふうと息をついてから、堪えるように、胸の前で両手をぎゅっと握った。
「いっつも、ふゆちゃんが無理してないか心配なんだ」
「……確かに。私、毎日になと会えるから、きつい仕事も頑張れてるとは思う」
永野が静かに言った言葉に、真砂は眉を曇らせる。
「私と暮らすの、重荷になってない?」
「ならない。でもきっと、になが居ないと生きていけない。一年も持たないよ」
「それは、喜んでいいのかな?」
「うん。だからこれからも二人で働いて……慎ましく一緒に、い、居よう」
最後の方は照れが出て、震えぎみになった真砂の台詞に、真砂の表情はふっと明るくなった。
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