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7.魔女の一撃と小悪魔の接吻
「ふゆちゃん、いかないでえ!」
廊下にうずくまっている永野ふゆに、同居人の真砂になは、涙目で追い縋った。
「でも、仕事は行かなきゃ……いてっ!」
「ほらあ! そんな体で仕事なんて無理だよ!」
這うように玄関に向かう永野を、真砂は引き留めようと必死だ。
「にな、大丈夫だよ。ぎっくり腰くらい……」
「そう言うけど、全然歩けてないじゃん!」
真砂の言うことはもっともである。ワーカホリックの気がある永野は、普段は何があっても仕事を休まない。それも丈夫な体があってこそ。しかし、ぎっくり腰は健康でも前触れなく起こるものであるので仕方がない。というか冷静に考えて歩けないと職場に辿り着けないのでは? と真砂は思うのだが、遅刻しそうだと焦る永野の頭からはその視点がすっぽりと抜け落ちていた。
「う、それは……た、タクシー拾うから!」
「それに会社についても、それじゃ仕事できないよ! もー、休もうって!」
そこで真砂は永野に覆い被さって、鞄の中からスマートフォンを奪った。電話帳から永野の勤務先の番号を探して、通話ボタンを押す。
「ちょ、にな!? 何してっ」
「ほら休みますって言って、今すぐ、ここで」
腕組みで永野を見下ろす真砂の目は真剣そのものだ。そして永野は本質的に、真砂には逆らえない。
「あ、すみません……ぎっくり腰で動けなくて……あ、いいんですか。ありがとうございます……!」
いつも怖い上司も最後には労ってくれて、永野は拍子抜けして電話を切った。
「やったあ! ふゆちゃん、えらいね~!」
そして真砂に甘やかされる。腰は痛いが、たまには弱ってみるのも悪くないなと永野は思った。
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