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8.これも夏の栞
今夜の永野ふゆは、大荷物で帰宅した。
「うわあ、ふゆちゃん。それどうしたの?」
同居人の真砂になは、目をキラキラさせてそれを見つめる。
「職場の人が、実家から送られてきたの配ってて……」
「実家がスイカの名産地なんだねえ」
真砂は「すいかのめいさんちー♪」とついつい歌いながら、永野が下げていたスイカをぽこんと叩く。良い音がした。
「あ、せっかくだから、あれ、やろうよ!」
「でもあれ、後片付けが大変じゃない?」
「下にタオル引いたら大丈夫!」
真砂はいそいそと、広げたバスタオルの上にスイカを置く。手頃な棒が無かったので、すりこぎを用意した。それから、目隠し用のタオルを永野に差し出す。
「って、私が割るの!?」
「うん! 私が完璧にナビゲートするから、安心してまっぷたつにしていいからね!」
真砂はそう言って、躊躇する永野に目隠しタオルを巻いてやった。これでスイカ割りの準備は完了である。
「ふゆちゃーん、こっち、こっちだよ!」
「こっち、って……右? 左?」
「んーと、ふゆちゃんから見て左かな?」
「頼りないな……」
真砂は手をぱちぱちと叩きながら、スイカの方向へと永野を導いていく。指示は大雑把だが、永野は真砂を信じているので、ほとんど迷いなく進む。
「……ここだ!」
ぱこん、とすりこぎを振り下ろせば、手応えがあった。すりこぎでは弱いのか、ヒビが入ったくらいだが。
「わあい! ……ね、ふゆちゃん。夏って感じで楽しいね!」
永野はその問いに満面の笑みで答えた。二人の夏は始まったばかりだ。
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