祈る  〜神様なんて〜

3/4
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
神様なんていない。 窓の外は猛暑で蝉が劈く。 それなのに昨日、冷たい雨に打たれた私は寒気に襲われ、熱が出て起き上がれずにいた。 部屋の隅に敷かれた布団の中で身を震わせ蹲り、ただ時が過ぎるのを待ちわびていた。 母が仕事に出て行くまで、このまま何事も無く過ごせればいい。ただそれだけを願っていた。 だけど、私の願いは届かない。 「お前のせいで部屋の空気が悪くなる」 そう言って、母は布団の上から私を小突き出した。 「お前がいると鬱陶しい」 そんな言葉も聞こえ、だんだんと力の入り方が強くなる。 するとズシリと体の上に体重が掛かる。 息苦しさに耐え兼ねて布団から顔を出す。 母の怒気を孕んだ瞳が私を見下ろし、その手が私の首に掛かる。 苦しい……。 ダメだ、このままじゃ殺される。 首に掛かった手に力が入り、私は苦しさから逃れるために足掻いた。 神様なんていない。 絶望が首を擡げる。 そして、頭の片隅で何かが囁く。 『自らの手で自由を勝ち取れ』 手足に力を込めて、もう一度、足掻いた。 自由のために、自分のために。 母を突き飛ばし立ち上がる。 「私に逆らうなんて生意気だ」 母の怒声が聞こえる。  逃げなきゃ! 飛び掛かる母の腕をすり抜け、玄関を目指し台所に足を進めた。 何かが、また、囁いた。 『自らの手で自由を勝ち取れ』
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!