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神様なんていない。
窓の外は猛暑で蝉が劈く。
それなのに昨日、冷たい雨に打たれた私は寒気に襲われ、熱が出て起き上がれずにいた。
部屋の隅に敷かれた布団の中で身を震わせ蹲り、ただ時が過ぎるのを待ちわびていた。
母が仕事に出て行くまで、このまま何事も無く過ごせればいい。ただそれだけを願っていた。
だけど、私の願いは届かない。
「お前のせいで部屋の空気が悪くなる」
そう言って、母は布団の上から私を小突き出した。
「お前がいると鬱陶しい」
そんな言葉も聞こえ、だんだんと力の入り方が強くなる。
するとズシリと体の上に体重が掛かる。
息苦しさに耐え兼ねて布団から顔を出す。
母の怒気を孕んだ瞳が私を見下ろし、その手が私の首に掛かる。
苦しい……。
ダメだ、このままじゃ殺される。
首に掛かった手に力が入り、私は苦しさから逃れるために足掻いた。
神様なんていない。
絶望が首を擡げる。
そして、頭の片隅で何かが囁く。
『自らの手で自由を勝ち取れ』
手足に力を込めて、もう一度、足掻いた。
自由のために、自分のために。
母を突き飛ばし立ち上がる。
「私に逆らうなんて生意気だ」
母の怒声が聞こえる。
逃げなきゃ!
飛び掛かる母の腕をすり抜け、玄関を目指し台所に足を進めた。
何かが、また、囁いた。
『自らの手で自由を勝ち取れ』
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