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はぁ、なんでこうも上手くいかないのかしら。
私は、駅から自宅までの路をトボトボと歩いていた。今度のヒトは友達を通じて知り合った人だった。年上で優しそうだったから「お付き合いしませんか」と言われて二つ返事で交際を開始したのだが、デートを重ねるにつれてなんか違和感。年上だからしっかりした人なのかと思いきや、いっつもこっちの顔色を窺ってる感じなのよね。それも優しさなんだと思っていたけれど、何につけても「どっちがいいと思う」「キミに任せるよ」って言われて段々疲れてきちゃったのよ。友達に愚痴ったら、笑われたわ。
「だってさー、どう考えてもウララには『このヒトなら甘えられる』って思うような男子しか寄ってこないわよぉ」
「甘える? 私はね、男女平等な関係を望んでるのよ。なんで一方的に甘えられなきゃいけないのよ。勝手に扱いを決めないで欲しいわよ!」
「それは無理だよ。ウララはどう逆立ちしたってメンタルも見た目も『ゴリラ女子』だもん」
「ひっど!」
確かに私は華奢ではない。高校時代はインターハイに出場するくらいのスポーツ選手だった。その縁で大学にも進学したし、就職先まで決まった。だから、自分の体格を否定する気は全くない。だからといって、それを「強い」と言われるのは心外だ。自分で自分を肯定できなくてどうするんだ。自分でお勧めできないような自分を、どうして他人に好いてくださいなどと言えようか。
「人間、ちょっとくらい瑕疵があるくらいの方が可愛げがあっていいと思うんだけど。最近、ウララはガツガツしすぎみたいだから、ちょっと婚活から離れたら?」
歯に衣を着せぬ友達の助言は有難いが、さすがに「ガツガツしすぎ」なんて言われると凹む。そんなにみっともなかったかしら、私。一人が嫌なわけじゃないのだけどね、先のこと考えるとのんびりもしてられないっていうか、周囲の男性が既婚者ばっかりで出会いが無いから、今からアクションを起こしておいた方がいいのかもっていう……。
「やっぱ、凹むくらいならしばらく自然体でいるのがいいのかもー」
そうこうしているうちに自宅アパートに付いた。郵便受けを開けると、ダイレクトメールやら宅配ピザのチラシやらに混じって、びっちり文字が書き込まれたA4サイズのコピー用紙が出てきた。なんだこれ……。眉間に皺を寄せて見出しを読んだ。
『我々は政府に監視されている! 窓際の鳩には気をつけよ!』
「はぇ?」
思わず変な声が出た。以降、その根拠について図解付きでつらつらと書き込んである。何かしら……。なんか、電波を着信してしまったオカシイ人の戯言みたい。読み物としては面白いけど、ヘンな人が近所にいるのは怖いなぁ……。
私はそのヘンなコピー用紙もまとめて回収して、エレベーターに向かった。
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