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さてと、ここらへんのポストには概ね「お知らせ」を撒くことができた。この気付きに同調してくれる人がどれだけいるだろうか。きっと、バカげた妄想だと一笑にふされるかもしれない。愚かなことだ。誤魔化しようもなく、これは真実なのに。
一月ほど前、我が家のベランダでカラスに突かれて死んだハトの死骸を片づけようとした時、見つけてしまったのだ。ハトの身体から見たことのない機械が飛び出ているのを……。最初、それは研究のための標識みたいなものなのかと思って、イヤイヤながら仔細を確かめた。が、それは身体の中に完全に埋まっていた。飛び出ていたのは機械のほんの一部のようだった。何だろうとは思ったが、それ以上は追求しなかった。ハトの死骸なんて、そもそも気持ち悪い。触るのも嫌だったからだ。ビニール手袋をはめた手で、そのまま新聞紙で包んでゴミ袋に押し込んで捨てた。
それから、なんとなくハトが気になった。自分が見たものがなんだか解らなかったからだ。公園や、駅前でハトを見かけると、じっと様子を見つめてヘンな個体がいないかと注視するようになった。そしたらどうだ。やけに人を見る個体がいるではないか。地べたを突きながら、常に人を観察している。そう思うと、あいつも、こいつも、それも……道行く人を見ているように思えてくる。電線からこちらを見下ろしてジッと観察されてるような気がする。何故ハトは人を見るのか。
気味が悪くなって、ネットを色々検索していたら、同じことに気付いた集団がいることを知った。ハトには機械が仕込まれていて我々は常に監視されているというのだ。なるほど、そうか。ベランダの真向いの電線からこちらを見ているハト。アレは、実のところ我々を監視する機械の鳥なのだ。早速その集団に接触を試みた。
その集団は『ファティマの目』という団体だった。住宅街の一軒家で活動していて、ネットを中心に同士を集めていた。代表は、上品な様子の初老のご婦人。メンバーからは「リーダー」と呼ばれていた。
「貴方も気付きましたか」
普通のお宅のリビングルームのような部屋に通されて、腐葉土みたいな香りのするお茶を勧められた。高麗人参のエキスの入った高級なお茶だというが、いただいたところでカブトムシになったような気分しか味わえなかった。
「今、都会を席巻しているドバト……いわゆる、カワラバトは1964年の東京オリンピックの時に国が放ったものが繁殖したものです」
「ああ、……はい」
重々しく述べるリーダーの話の展開が見えずに、目をパチクリさせた。
「これは、国民を油断させるために政府が行った作戦です。我々は、ハトを平和と祭典の象徴として見、その存在を疑うことが無くなりました」
「はぁ……」
「そこで、見慣れたハトを機械を仕込んだハトに少しずつすり替えていったのです」
「そうなんですね」
「その証拠に、ドバトは鳥獣保護法で守られています。狩猟してはいけないのです。おなじくハトであるキジバトは狩猟対象になっているのに、ですよ」
「ははぁ。知りませんでした」
「機械化されたハトを使って、政府は我々を監視しているのです。こんな人権を無視した非道な監視政策を取っていることを、我々は『気付いた者』として皆に知らしめ、即刻政府に止めさせなくてはいけません」
あの機械は、政府が作ったものなのか! ゴクリと固唾を飲んだ。恐ろしいことだ。
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