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オレは自分の感覚と同期した身体……義体を鏡越しに見つめた。いやに華奢な体つきで、つるりとしている。成人型にしろって言ったのに、ちょっと小柄じゃねぇか? アッシュグレイのフェザーマッシュの前髪は、目にかかりそうなくらい長め。小さめの顎に薄い唇。
「なんだよ、これ」
発した声が思ったより高めで、ギョッとして思わず首に手を持っていった。
「『なんだよ』って、新作なのよぉ? カワイイでしょ」
パイは、短く刈り上げた坊主頭……金髪に染めている……を左右に振りながら、表面積の広い身体をクネクネさせた。白いYシャツからのぞく筋肉は過分にゴツイ。相変わらずコイツの感性は理解不能だ。
ここは、地上で活動しているオレ等と同星系人、パイの本拠地。これまで仕入れた情報からすると、マンションという建物の一室。つまりは地上の居住空間。住人に対するセキュリティは万全で、ほぼ完全にプライベートが守られている。ケースに並べられた義体は高等生物の外観を模しており、軌道上にある基地から通信で同期することができる。地上で活動したいと望む者はパイから任意の義体と同期するためのアクセスキーをもらい、接続する。
「前回オレが使っていた義体はどうしたんだよ。目立たない一般サラリーマンのヤツ」
「あー、アレは今メンテナンス中なのよ。摂食排泄ができるように改造してるの。今のアインのは、最新式だからね、自然に食事っぽいことができるようになってるわよ」
「あっそ、そりゃどーも。でもさぁ、これは……何? どっちなの?」
「今時のトレンドで『うさぎ男子』って言ってね、草食男子の中でも……」
「男子? ああ、男なのか……。で、なに? 草食? 草しか食わん設定なのか?」
「五月蠅いわね。最後まで話を聞きなさいよ」
パイはぴしゃりと言うと、オレの手を引いて隣の部屋まで連れて行った。そこは、衣裳部屋だ。吊り下げられた色とりどりの衣装の中から、パイが適当に見繕ってオレの足元にぽいぽいと投げる。身に付け方は解っているので、下着の上にもそもそと着こんだ。なぜか袖が長い。手首が隠れて指先しか出ない。よく見たら、細く長い指。爪は磨き込んである。
「……サイズ、合って無くね?」
「それで合ってるのよ。オーバーサイズがマストなの! っとに、普段どのチャンネルを見てるわけ?」
「海洋生物チャンネル。オレの中ではマッコウクジラの成長記がトレンド」
「自分らが撮ってるデータは見てないわけ?」
「それはオゼンの仕事だ。オレは、情報収集ギミックの開発メンテ担当だから」
パイは左右に首を振って肩をすくめた。
「地上で仕事するんだったら、地上の高等生物チャンネルも見ときなさいよ。なじめなくて目立っても知らないわよ」
目立つというなら、パイも相当だ。ガッチリとした筋骨隆々の身体でしなを作って女性言葉を使う。「オカマ」というのだそうだ。高等生物の雌雄どちらからも求愛行動をされにくいタイプなので、地上で活動しやすいという。ホントかよ。なじめなくて遠巻きにされてるだけじゃないのか? オレの思いなどそっちのけでパイは話し続けた。
「演算処理はほぼバランス制御と機動力に振ってあるわ」
「いいよ。仕事に必要な演算ユニットは持参してるから。通信は内蔵? 外付け?」
「外付けよ。内蔵にしたら、ブツブツ独り言を言うヘンな人になっちゃう」
んじゃ、外つけフォーカスが必要だ。一昔前に比べたら、大分地上の文明が進んできたので昔ほどは苦労しなくなった。ちょいと前は小型カメラもタブレット端末もなかったから、地上で活動する時はこっそり隠れてやらなくてはいけなかった。今では堂々街中でタブレット端末をいじっていても咎められない。そこは、活動しやすい良い時代になったってことなのかな。
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