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すると、ジェダは膝を曲げて身を屈めると、仙斎茶の頭を向けてきたのだった。
「これなら、手が届くでしょ?」
「届くでしょって……。もうほとんど溶けちゃったよ」
それでもジェダの望み通りに、頭の上に残っていた雪を払い落とす。
話している間にほとんど溶けてしまったので、ジェダの湿った頭には、ほんの僅かな雪しか残っていなかった。
パタパタと柔らかな仙斎茶の頭を叩くと、「もう大丈夫だよ」と声を掛ける。
「だいたい払えたから。それより、早くお風呂に入った方がいいよ。風邪を引いちゃう」
「そうだね。俺はいいけど、コトに移したら大変……」
その時、身を屈めていたジェダが、話しながら顔を上げた。
先程まで仙斎茶色の頭があった場所には、ジェダの顔があった。
それは、私とほんの少ししか離れていなかったのだった。
「あ、の……」
「……やっぱり、こうして間近で見ると、コトは可愛いね」
ミントの様な爽やかな香りのするジェダの吐息が顔にかかってくすぐったい。
身を引くと、したたかに背中を廊下の壁にぶつける。
避ける間も無く、ジェダは近づいて来ると、私の頭を挟む様に壁に両手をついた。
いわゆる、壁ドンの状態である。
「も、もしかして……酔ってる?」
「酒の類は一滴も飲んでないよ。これでも酒は強い方だから」
言われてみれば、ジェダと同棲して三年になるが、酔い潰れた姿は見た事が無かった。
ジェダが言うには、「自分が強いんじゃなくて、この国のお酒が弱いから」らしいけど。
「さっきから、コトから甘い香りがする。これ何の匂いだろう……」
首の辺りに顔を近づけると、犬の様に匂いを嗅いでくる。
照れているのを知られたくなくて、わざと正面を向いたまま、必死に言葉を考える。
「い、今、ココアを飲んでいたからだよ。きっと……!」
「ココア……にしては、もっと甘い香りの気がする。なんだろう。この匂い……」
「じゃ、じゃあ! きっとシャンプーの匂いだよ。今晩からシャンプーを変えたんだった!」
「シャンプーか……。それなら納得かも」
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