停電したら天井を見上げて

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まだ壁ドンされた時の衝撃が残っているからか、ジェダを見ると妙に緊張してしまう。 「駄目だな。私……」 大きく息を吐きだすと、左手の薬指で鈍く輝く指輪が目に入る。 それを反対の掌で包むと、胸に当てる。 「恋人になったのに逃げてばかり……駄目だな。私……」 私の呟きに肯定するように、パソコンの上で丸くなっていた小雪がニャアと鳴く。 その妙に愛くるしさと腹立ちさをふくむ態度に、私は小雪をそっと持ち上げると、パソコンからどかしたのだった。 数ヶ月前、私は同棲人だったジェダに告白されて恋人関係になった。 ジェダは今から三年前に、異世界・アマルフィア王国からやって来た騎士だった。 そんなファンタジーなことが、現実に起こる訳がないと思っていたけれども、ジェダにこの世界の常識が全く通じなかったところから、ジェダの話を信用せざるを得なかった。 そんなジェダにこの世界の常識を教えつつ、いつか私の手元を離れて自立するか、はたまた元の世界に帰ってしまうかもしれないと寂しく思っていたところ、ジェダから「ずっと好きだった」と告白をされてしまった。 それも婚約指輪と思しきシルバーの指輪と、「元の世界に帰るつもりはない」という言葉も一緒に。 恋人になったからといって、特に何かがある訳でも、変わる訳じゃなかった。 ただ、前よりも少し会話が増えたくらいで。 強いて言えば、ジェダがこれまでほとんど話してくれなかった元いた世界について教えてくれるようになったくらいだろうか。 これまでは互いに遠慮して、ジェダが元々住んでいた世界ーー異世界にあるというアマルフィ王国について、ほとんど話さなかった。 あまり根掘り葉掘り聞くと、ジェダが辛くなると思ってのことだったし、ジェダ自身もあまり語ってくれなかった。 それが恋人になってからは、ジェダは事あるごとに話してくれるようになった。 幼少期の思い出、家族、友人、騎士団の仲間の話、お城があるという王都の様子、初めて騎士団の任務で訪れた村、鍛錬をする時にいつも行っていたお気に入りの湖。 食べ物や生き物、国の風習についても教えてくれた。
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