停電したら天井を見上げて

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「大した事じゃないよ。間違えて小雪の尻尾を踏んだみたいで、足を引っ掻かれただけ。コトは? なんだか悲鳴が聞こえたけど……」 「私もテーブルに置いていた本を落としただけ。急に暗くなったから、ちょっとびっくりしちゃって……」 辺りを見回すと、エアコンと天井の間の隙間から、暗闇の中で輝く二つの明かりがあった。おそらく小雪だろう。 どうやらジェダを引っ掻いた後、エアコンの上に避難したらしい。 「とりあえず、懐中電灯探してくるね」 「じゃあ、俺も服着てくるね。タオルを巻いた状態だったから」 そうして、私は懐中電灯を取りに玄関に向かい、ジェダは着替えに洗面所に向かった。 玄関脇の戸棚を開けて懐中電灯を取り出すが、何度スイッチを入れても明かりは点かなかった。 「あれ、電池切れかな?」 なんとなく懐中電灯を上下に振っていると、玄関が叩かれた。 「大家の(はし)です」 「は〜い」 玄関を開けると、年配の女性が懐中電灯を片手に立っていた。私達が住んでいる大家の橋さんである。 「黒川(くろかわ)さん、急な停電で驚いたでしょう。大丈夫?」 「まあ、なんとか。やっぱり停電なんですか?」 「スリップした車が近くの電柱にぶつかったのよ。それでこの辺り一帯が停電しちゃって……」 橋さんに言われて外を見渡せば、確かに私達が住んでいるアパート周辺の民家や外灯が消えていた。 何も明かりがない街はどこか怖く、不安になった。 「そうなんですね……」 「急な停電で大変でしょう。暖も取れなくて……」 「い、いいえ! それは大丈夫です……」 「コト、お客さん?」 その時、洗面所の扉が開いて、服を着たジェダが出て来る。 「あ、うん。大家の橋さんが来ていて……」 「あらやだ! ジェダイドさんじゃない!」 「こんばんは。今夜は冷えますね」 ジェダが登場するなり、橋さんは急に声色を変えた。 橋さんは重度の面食いで、韓流ドラマの大ファンだ。名前こそ忘れてしまったが、普段はとある韓流ドラマの男性俳優の追っかけをしている。
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