17人が本棚に入れています
本棚に追加
「大した事じゃないよ。間違えて小雪の尻尾を踏んだみたいで、足を引っ掻かれただけ。コトは? なんだか悲鳴が聞こえたけど……」
「私もテーブルに置いていた本を落としただけ。急に暗くなったから、ちょっとびっくりしちゃって……」
辺りを見回すと、エアコンと天井の間の隙間から、暗闇の中で輝く二つの明かりがあった。おそらく小雪だろう。
どうやらジェダを引っ掻いた後、エアコンの上に避難したらしい。
「とりあえず、懐中電灯探してくるね」
「じゃあ、俺も服着てくるね。タオルを巻いた状態だったから」
そうして、私は懐中電灯を取りに玄関に向かい、ジェダは着替えに洗面所に向かった。
玄関脇の戸棚を開けて懐中電灯を取り出すが、何度スイッチを入れても明かりは点かなかった。
「あれ、電池切れかな?」
なんとなく懐中電灯を上下に振っていると、玄関が叩かれた。
「大家の橋です」
「は〜い」
玄関を開けると、年配の女性が懐中電灯を片手に立っていた。私達が住んでいる大家の橋さんである。
「黒川さん、急な停電で驚いたでしょう。大丈夫?」
「まあ、なんとか。やっぱり停電なんですか?」
「スリップした車が近くの電柱にぶつかったのよ。それでこの辺り一帯が停電しちゃって……」
橋さんに言われて外を見渡せば、確かに私達が住んでいるアパート周辺の民家や外灯が消えていた。
何も明かりがない街はどこか怖く、不安になった。
「そうなんですね……」
「急な停電で大変でしょう。暖も取れなくて……」
「い、いいえ! それは大丈夫です……」
「コト、お客さん?」
その時、洗面所の扉が開いて、服を着たジェダが出て来る。
「あ、うん。大家の橋さんが来ていて……」
「あらやだ! ジェダイドさんじゃない!」
「こんばんは。今夜は冷えますね」
ジェダが登場するなり、橋さんは急に声色を変えた。
橋さんは重度の面食いで、韓流ドラマの大ファンだ。名前こそ忘れてしまったが、普段はとある韓流ドラマの男性俳優の追っかけをしている。
最初のコメントを投稿しよう!