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17.家族ごっこも悪くない
レイが田畑と暮らすこの家には、レイの入ったことのない部屋が幾つもある。
一日中寝かされているベッドが置かれているのが「レイの部屋」だと、レイ自身は認識している。レイの部屋には簡易トイレも置かれているため、他に足を運ぶのは風呂場くらいだ。風呂場へ向かう廊下には階段があるので、恐らく二階にも部屋があるのだが、レイはそこに行ったことがない。
レイの生活範囲が限定されているのは、飼い主である田畑の判断である。あくまでレイを「監禁」しているのだから。そのためにレイの部屋には外側から鍵がかかるし、レイは首輪と鎖でベッドから離れられない。
その日、レイの頭にふと疑問が浮かんだ。
「田畑さんはどこで寝てるの? 二階?」
「そうだね」
「一人で?」
「うん、そう」
「家族は、いないの?」
「……そうだね。今はいない」
レイはこの家の中で、田畑以外の人間に会ったことがなかった。廊下の長さや部屋数の多さから、レイはここをかなり広い屋敷だとみていた。そんな所に一人で住んでいるのか。
「田畑さんはもうずっと一人、なの?」
「……うん。ここは元々、僕の両親の家なんだ。二人が死んで僕のものになった」
「それは、寂しいね」
「寂しいけど、両親には感謝しているよ。家があるから君を養うことができる」
田畑は柔らかく笑って、レイの髪をすいていく。
「レイがいるから、今の僕は寂しくないよ」
「……そっかあ」
ふわりと微笑むレイを見て、田畑は「ペットも家族の一員」というフレーズを思い出していた。
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