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「あのさあ、時田君。聞きたいことがあるんだけど」
さっきの僕の話は聞こえてなかったのか?
それとも僕が一人で言った気になっているだけ?ああ、頭回らない、混乱してきた。
でも答えなければ良いということだけはわかる。そうだ振り向かなければいいだけじゃないか。絶対答えないぞ。決意も目の瞑りも固くする。
「明日の集合時間って何時だっけ?」
そんなの自分で調べてくれよ。僕は本当にねむいし寝たいんだ。
さっきまで少しだけあった、答えないのは申し訳ないという気持ちもとうになくなり、寝たふりを続ける。
「……七時だっけ?あ、七時半?……違うそんな早くないか、八時か!八時だ!」
「八時半だよ!」
決意は簡単に崩落した。
僕はこんなにチョロいのか。
一気に開いた目はまだ慣れておらず、何も見えないはずなのに、振り返った僕の目と寺島の目がバッチリ合っているのは、わかる。
「そっか、そっか、ありがと」
軽っ。人の入眠を邪魔してそれかっ。
「ねえ、明日の朝ごはん何かな、パンかな、ご飯かな?俺はご飯だと嬉しいんだけど、ホテルってパンのイメージなんだよね、旅館といえばご飯なんだけどさ」
おいおい、スゲー喋るじゃん。
この瞬間もバッチリ視線は交わっていて、起きているのはバレている。答えないわけにはいかない。
正面切って無視できるほど僕は嫌な奴じゃない。
「……わかんないけど、バイキングとかなんじゃない」適当に答える僕。
「ああ!そっか!バイキングか!時田君は朝はいつもパン?ご飯?」はしゃぐ寺島。
「……パン」しぶしぶ答える僕。
「へえ!何パン?何パン⁉」
「……だいたいテーブルロール」
僕のパン事情そんなに気になるか?
だんだんと暗さに慣れてきた目は、ニッコニッコしている寺島を映す。
「時田君ってさ、勉強できるんでしょ?特に得意な教科って何?」
「……社会」
「へえ!数学っぽいのに!」
何だそれ。
「え、特に何?地理?歴史?公民?」
「……歴史」
「やっぱり!日本史?日本史でしょ?」
「……うん」
「やっぱり~!俺は物理が好きだけど!」
何だこれ。
なぜだか嬉しそうな寺島に、恥ずかしいが「……僕にそんな興味ある?」聞いてみると、寺島はパチパチと音が出るんじゃないかと思うくらい大きな瞬きをして、「当たり前だよ!俺ずっと時田君と喋りたかったんだから!」と言った。
何だそれ……ちょっと嬉しくなっちゃうじゃないか。
「仲良くなれば宿題とか見せてくれそうだし」
前言撤回。
「……寝る」
「うそうそ!冗談だよ~!」
背中にウキウキの塊がぶつかってくる。
「あ、時田君、ブロッコリーとカリフラワーの違い知ってる?」
「……さあ」小声で答える。
「俺も知らね~~」
「何だそれ!」
再びバッチリ目が合う。
ニッコニッコしている寺島がハッキリ映る。
なんだかもう寺島から逃れられないような気がした。ここからはもう、いや、思い返せば最初に反応してしまったときに、僕は寺島の発する睡魔さんより強力な独自の時間軸・空間軸に取り込まれたのだ。
郷に入っては郷に従うしかない。
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