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数日後、ジローが地下鉄のホームでスマートフォンをいじっていると、またあの時の男がホームドアの向こうから声をかけてきた。
「よう。楽しい夢は見られたか?」
「正直、あの石は微妙だった。不良品だったのかも知れないな」
「どうして?」
「まず映像が雑だ。木もビルも似たようなのばっかり出てくるし、武器なんて小学生の工作みたいだった。それに、登場人物がやたら文句が多くて、ストレスが溜まる」
ホームドアに腕を乗せて猫背になっている男は、例の薄笑いだ。
「頭の中にないものは夢には出てこない。使いこなせてないだけだ」
言い返しはしなかったが、ジローは内心ムッとした。男は消える直前に言った。
「じゃ、いい夢を」
(「頭の中にない」だって?)
ジローは地下鉄の中でスマートフォンを見ようとしたが、ふと思い立って、満席の車内を眺めてみた。はげかけた革靴をはいた客と、漆塗りのように光っている革靴の客が、隣り合って座っていた。目線を上に移すと、沿線で行われるミニコンサートの広告があった。こういうものを気にしたのはいつ振りだろうか。
その日の夢に出てきた人物は、リアルな靴をはいていた。
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