おやすみ中毒者

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「スマホ中毒者は損してるぜ?」  いきなり降ってきた言葉にカチンときて、ジローはスマートフォンから顔を上げた。  地下鉄のホームドアの向こう側、つまり線路側で、やせ型の男がホームドアに腕を乗っけて薄笑いを浮かべていた。 「俺はスマホ中毒じゃない」  目の前の男に驚くより先に、ジローは言った。 「ははあ。中毒者はみんなそう言うんだぜ?」 「余計なお世話だ。暇な通勤時間に何しようが勝手だろ」 「ちなみに何で損か教えてやろうか?」  ほれ、と男がクルミ大のものを差し出してきたので、ジローは思わず受け取った。一見灰色だが、ツヤツヤと珍しい色に光る石だ。 「これは、枕の下に入れておくだけで何でも見たい夢が見られる石だ。タダでやるから使ってみな。そしたら分かる」  そう言い残して男は姿を消した。今度こそ驚いて辺りを見たがどこにもいない。電車到着のアナウンスが流れる中、ジローは右手にスマートフォン、左手に不思議な石を持ったまま立ち尽くした。  その夜、ジローは試しに男からもらった石を枕の下に入れてみた。前々からRPGゲームの世界の夢を見てみたいと思っていたのだ。  するとどうだろう、夢にゲームのキャラクターが出てきて、ゲームと同じ声でしゃべってくれるではないか。ジローはすっかり嬉しくなって、異世界風の茶色の荒野をキャラクター達と練り歩き、会話やバトルを楽しんだ。次の日は空を飛ぶ夢、その次の日は大金持ちになる夢――。  
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