千佳の秘密

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 最近、幼馴染の千佳の様子がおかしい。  髪もボサボサで、目の下にすごく濃いクマができている。そもそも、学校自体も休みがちだし、たまに来ても、どこか上の空って感じだ。それに、なんだか露骨に避けられてる感じがする。もともと明るい性格じゃなかったけど、最近はなんか、やつれてるって感じだ。 「なにかあったの?」  とある休み時間に、たまたま千佳を捕まえられたので、思い切って聞いてみた。 「なんでもないよ」 「うそ。様子がおかしいじゃん。明らかに。ね、何かあったらそうだんしてよ。友達でしょ」  千佳はにっこりと笑った。 「ありがとう。あーちゃんはやっぱり優しいね」 「一緒にお昼食べようよ。なにか奢ってあげるから」 「ううん、あんまりお腹すいてないから……大丈夫」  でも、顔からは血の気が失せて、歩く姿はふらふらで、どう見ても「お腹すいてない」って感じじゃない。  私はいてもたってもいられなくなって、週末、千佳の家に押しかけることにした。お互いに家に遊びにいくことなんて、小さい頃以外はほとんどなかったけど、そうも言っていられない。 「千佳、いる?」  インターホンを鳴らしても、反応がない。三回目を押した時、ようやくドアが開いて千佳が顔を出した。真っ青で、今にも倒れてしまいそうだ。だけど、私の顔をみると少し嬉しそうに笑ってくれた。 「き、来てくれたんだ……」 「あがっていい?」 「うん。いいよ、来てくれて嬉しい」 「お邪魔します……ウッ」  家の中に入った途端、ものすごい腐臭が喉の奥をついた。だけど、人の家に上がるなりそんな態度を取るのは失礼だと思って我慢した。  千佳の家、小さい頃はすごくいい匂いで好きだった。確か千佳のお母さんがアロマとかに凝っていて、くるたびに違う香りがしたものだ。今はこういう匂いなのかな? 「ほ、ほんとはね」  千佳はリビングではなく、二階にある千佳の部屋への階段を登りながらいった。 「そろそろ、お招きしようと思ってたの、あーちゃんのこと……」 「そ、そうなんだ」 「だから、あーちゃんのほうから来てくれて、嬉しかった……ちょっと時期は早いけど……」 「時期?」  二階の廊下は、更に濃い臭いが立ち込めていた。吐き気を堪え切れないほどだった。今日はたまたま朝食を抜いてきたけど、たぶん食べていたらここで全部戻していただろう。  なんだこの臭い。書いだことがないほどひどい臭いだ。 「さあ、入って……どうぞ」  千佳が扉を開く。 「え……?」  思い出の中の部屋とは、全然違っていた。カーテンは……いや、窓は真っ黒な板で塞がれていて、部屋のところどころで蝋燭が灯っている。部屋の隅にはゴミ袋が大量に投げ捨ててあって、壁にはへんな落書きと、それから床には……どす黒い魔法陣のようなものが描かれていた。 「こ、これ……」  思わずあとじさったとき、ごん、と側頭部を何か重たいもので叩かれた。痛いというより、重かった。身体の自由がなくなって地面に転がり、遅れて、ようやくじんじんと傷が痛み出す。 「うふ、うふ」  千佳が私の上に馬乗りになった。  右手に釘抜きのついたハンマーと、左手にアイスピックのような棒を持って…… 「なに……やめて」 「あーちゃん、悪魔を呼ぶための儀式って、知ってる?」 「あ、くま……」  何言ってるんだこの子。 「悪魔を呼ぶためなら、生贄を捧げてもいいんだって、図書館で本を読んでて、それを知って……お父さんとお母さんで、実験してみたの。本当だった、本当だったんだよ。そしたらさ、あ、あーちゃんを生贄に出来るって思ったら……うふふふ、うふふふふふふふ!」 「なに……やめて!」  だめだ、身体が動かない。  手のひらにどんっと衝撃があった。アイスピックが私の右手を貫いていた。痛いやら熱いやらで、ものすごい悲鳴が私の口から漏れた。  千佳は私の口をキスで塞いだ。吐きだした悲鳴がそのまま自分の中に返ってくるようで気持ち悪い。千佳の舌が、私の口の中で滝のように出てくる唾液を全部吸い取ってしまった。 「あーちゃんのこと、大好きだから。ずっとこうしたかった……ね、まだまだあるよ。次はね、これ。火炙りだって……」  千佳は蝋燭を一本手にして、私の胸元へと持ってきた。 「やめて……なんでこんなことするの……」 「大好きだから! ずっとこうしたかったのあなたのこと!」  服が乱暴に剥がされて、あらわになった胸に、燃える炎の芯が当てられる。 「どんな悪魔が出てくるかなあ。ね、まだまだ楽しまなくちゃ。あーちゃんを生贄にして出てきた悪魔となら、きっと仲良くできるよね」  頭がぼうっとする。  なんで。  悪魔って何? 「貴女を傷つけて、解体して、血の一滴まで絞り出して……そしたら、わたしたち、ずっと一緒にいられるよね。ああ、幸せ、嬉しい……ゆ、勇気を出して、魔女教に入ってよかった……!」  なんのこと。  なんのことなの。私、もう死にそうだよ。 「じゃあ、次はこれだよ。カッターナイフで頸動脈を切るの。すーっと気持ちよくなれるんだって。出てきた血、すごく綺麗だから、わたしが飲んじゃうからね。あーちゃん? 大好き、大好き大好き。好き、好き好き好き…………」
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