贖罪

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贖罪

私が絨毯点に雇って貰ってから十年の歳月が過ぎ、店主からの信頼が愈々揺るぎないものとなったところで、私は彼に提案した。  他の街に支店を出したらどうか、と。 売り上げが伸びるのは勿論のこと、それぞれの街で仕入れを行い、それを相互の街で販売すれば品揃えが増えたことで店の客も喜ぶに違いない、と。 店主は快諾し、そして、支店を設けることについて私に一任してくれた。 私は、(かつ)て過ごしたあの街に支店を構えることにした。 その街に足を踏み入れたのは、実に十年振りのことだった。 十年の歳月は、私の風体(ふうてい)をすっかり変えていた。 何よりも、十年前と比較して、私の人相は別人と言えるまでに変わっていた。 十年前の私の心に渦巻いていたのは絶望、そして憎悪だった。 けれども、今の私を突き動かす感情は、それとは全く異なるものとなっていた。 以前の顔見知りであっても、今の私を見、(かつ)ての姿を思い出すものは誰一人として居なかった。 新たな支店の運営に、私は寝食を忘れるかのようにして取り組み、程無くして経営を軌道に載せることができた。 その頃には、私もそれなりの給金を貰うようにはなっていた。 実入りが多いのだから、食事や酒などに贅を凝らすことも出来よう。 けれども、私は珍味佳肴にも、そして遊びにも興味は持てなかった。結婚を勧められたことも幾度と無くあった。けれども、私は悉く断った。そして、給金の殆どを蓄財に廻した。
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