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人生はエスカレーターだったとしても
「おはよう。完治おめでとう」
「ありがとう」
地下鉄の駅の改札口で待ち合わせをする日常が、何か月かぶりに戻ってきた。
「今日は果凛に伝えないといけないことがあるの。私は階段を使う人間に変わったんだけど、果凛はどうする?」
「えー階段で行くのか。エスカレーターの方が動かなくていいから休めるじゃん」
私の話を信じてくれた親友は、孤独のエスカレーターのトラウマまではわかっていないようだ。
「エスカレーターは止まってくれないから、本当の意味で休めないんだって。その点、階段は立ち止まって途中で休めるよ」
エスカレーターを見るたびにあの体験が蘇ってくる。
あれ以来、人生ってエスカレーターみたいなものかもしれないと妙に納得してしまっている。
エスカレーターと階段の間に立った果凛は、しばし悩んだ末私と同じ階段を選んだ。
すっかり怪我も治ったみたいで、軽快なステップで階段を駆け上がっている。
あっという間に駅の外に出た。
「あー、エスカレーター逆走したいなー。そしたら果凛と引退試合出られるのに」
憂鬱な秋の曇り空を吹き飛ばすように叫ぶ。
「たしかに。もう一回流星群の日にお願いしてみようよ」
「でも、絶対に同じ体験はしたくないんだよなー」
顔をしかめて曇り空を見上げたら、一瞬どこかが光った気がした。
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