人生はエスカレーターだったとしても

1/1
前へ
/10ページ
次へ

人生はエスカレーターだったとしても

「おはよう。完治おめでとう」 「ありがとう」  地下鉄の駅の改札口で待ち合わせをする日常が、何か月かぶりに戻ってきた。 「今日は果凛に伝えないといけないことがあるの。私は階段を使う人間に変わったんだけど、果凛はどうする?」 「えー階段で行くのか。エスカレーターの方が動かなくていいから休めるじゃん」  私の話を信じてくれた親友は、孤独のエスカレーターのトラウマまではわかっていないようだ。 「エスカレーターは止まってくれないから、本当の意味で休めないんだって。その点、階段は立ち止まって途中で休めるよ」  エスカレーターを見るたびにあの体験が蘇ってくる。  あれ以来、人生ってエスカレーターみたいなものかもしれないと妙に納得してしまっている。  エスカレーターと階段の間に立った果凛は、しばし悩んだ末私と同じ階段を選んだ。  すっかり怪我も治ったみたいで、軽快なステップで階段を駆け上がっている。  あっという間に駅の外に出た。 「あー、エスカレーター逆走したいなー。そしたら果凛と引退試合出られるのに」  憂鬱な秋の曇り空を吹き飛ばすように叫ぶ。 「たしかに。もう一回流星群の日にお願いしてみようよ」 「でも、絶対に同じ体験はしたくないんだよなー」  顔をしかめて曇り空を見上げたら、一瞬どこかが光った気がした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加