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止まらないはずの……
それから数日後。私はあの日の自分の発言を猛烈に後悔していた。
星頭と会話した以来、誰とも話していないから、日に日に喉の奥が詰まっているような気がする。ここに来てから、ホームシックどころじゃない異常な寂しさを抱えていた。
一つだけよかったことを強いて挙げるなら、辺りのエスカレーターを観察しまくっていたらわかった事実があることくらいかな。
まあわかった事実も、どうやら亡くなった人が乗っているエスカレーターは止まっているらしいっていう、知ったところで何の役にも立たないものなんだけど。
あーあ、果凛は元気かな。振り返って分身を見つめるのも、何度目だろうか。
悲嘆にくれていたら、隣から聞こえるゴウンゴウンという音が少し遅くなってきた。
ついに耳までおかしくなったかと、このいかれた場所に怒りが湧き上がってくる。
ゴウン……ゴウン。
だんだん幻聴じゃないくらいに遅くなっていったその音は、私の背筋を凍らせた。
「止まりそう!ちょっと星頭、どうにかしてよ!」
果凛が乗っているエスカレーターは、今や私の半分くらいの速度になっていた。
「亡くなった人のエスカレーターは止まっている」
私のここ数日での唯一の収穫が、こんなところで活きてくるとは。
「星頭、ねえ星頭ってば!果凛はどうして死にそうなの?」
灰色の天井の先の、見えない空に向かって叫ぶ。
数日ぶりに発した声は、ニワトリの断末魔のようだった。
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