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星頭は、現れなかった。
どうでもいい叫びにだけ反応してこんなところまで連れてきたくせに、使えない流れ星だ。
こうなったら自力でどうにかして果凛のエスカレーターを動かそう。まだかろうじて動いてるから間に合うはず。
隣のエスカレーターに飛び移る覚悟を決めていたとき、目の前で白い光の爆発が起こって、呑気な声がした。
「美潮さんはもしかして、私のことを呼んでいたんでしょうか?」
絵本の中から飛び出してきた黄色いスーパーヒーローは顔のない顔を撫でて、星頭と呟いた。
「そうです!助けに来てくれてありがとうござます」
二度と星頭なんて呼びません。ここに誓います。
「別に助けに来た訳じゃありませんよ。ただ、心外な言葉が聞こえたもので」
「全力で謝らせていただきます」
エスカレーター上じゃなかったら土下座していただろうというくらい、深々と頭を下げた。果凛の命の前ではプライドなんてどうでもよかった。
「謝られたところで非常に言いづらいのですが、私は果凛さんのエスカレーターを元の速さに戻せません」
一気に視界が真っ暗になった。私は星頭に踊らされている。
「ただし、果凛さんのもとへあなたを連れていくことはできますよ」
「それでもいいです!」
間髪入れずに叫んだ。果凛がどんな状態になっているのかだけでも知りたい。
「まったく。気分屋な人ですね」
「本当はエスカレーターを通常の速度に戻したいんですけど」
口答えしてからしまったと手で口を覆う。だけど星頭は私を肯定してくれた。容姿のこと以外には寛容みたいだ。
「そうですよね。でもとりあえず連れていきますから」
おなじみの眩しさとともに、地獄の空間から抜け出した。
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