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電気を消し、ヤマダさんに今日はもう電話を取れないことをメールで伝えてベッドに寝転がった。
最後に父と「おやすみ」を交わしたのは何年前のことだろうか。
耳元で聞こえた優しい声は、昔私が聞いたものだった。
あんな風におやすみを言われていた頃が、確かに私にもあったのだ。
決してすぐには許せない。でも、父の心情を一切理解しようとしなかったのは私もだ。
お互いに歩み寄る気がなかったのだ。
父が話をしたのは実の娘ではなく、スミレだったけれど…でも。
明日にでも電話してみようか。スミレはそう言ったのだし。どちらかが歩み寄らないと、永遠に距離は離れたままだ。
父は私がスミレだと気づくだろうか。気づかないかもしれない、何年も同じ家で過ごしていた娘の声すらわからなかったんだから。
そんなことを考えつつ、私は暗闇の中ゆっくりと目を閉じた。
頭の中ではずっと、父の「おやすみ」がこだましていた。
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