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枕元に置いていた2台のスマホのうち1台が、聞き慣れた着信音を奏でる。
今日は誰だ、と思いつつ画面を見る。見慣れない番号の表示。どうやら新規客のようだ。
着信音を2フレーズ分待った後、通話ボタンを押す。
「はい、『おやすみテレフォン』のスミレです」
さらさらと台本を読み上げるように私はそう告げ、相手の反応を待つ。
数秒の沈黙の後、電話の向こうの相手が小さく息を吸い、口を開ける気配がする。
「…あの、初めて利用するんですけど…えと…」
戸惑ったような声を安心させるように、私はまたさらさらと話す。
「初めてご利用されるのですね。ありがとうございます。まず、お客様のお名前と、敬語をご希望か否かをお聞かせください。もちろん本名でなくて構いません」
饒舌に話す私とは対照的に、相手は何度も口籠もり、ええと、あのぅ…を3回ほど繰り返した後答える。
「ぼ、僕は…ええとヒロシと言います…えと、敬語だと緊張するんでタメ語でもいいですか…」
ぼそぼそと喋るため聞き取りづらく、通話音量を最大まで上げてから私は答える。
「ヒロシさんですね、わかりました。じゃあこれからタメ語で話すね」
明るい声を出すには顔が笑っていないとできない、という昔聞いた話を思い出す。無理矢理口角を上げて笑顔を作りつつ私は続ける。
「今日はどうしたの?なかなか寝れないの?」
「はい…あの…ここなら気負わず話せるって聞いたので…」
「そっか、電話してくれてありがとね。私も全然寝れなくてねー…」
作り話も混ぜつつ自分の悩みや現状を話すと、相手も少しずつ心を開いて話し始める。
今日も1時間コースかな。壁にかけた時計を見上げ、私はベッドにそのまま横になった。
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