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私が『おやすみテレフォン』を始めたのは大学2年生の夏のことだ。
高校生まで住んでいた実家では、私の居場所が物理的にどこにもなかった。
3つ離れた弟と、7つ離れた妹がいて、父方の祖父母も同居していた。田舎だったので家自体は広かったが、部屋が多いわけではなかった。そのため、子供部屋は3人一緒くたにされていた。
勉強をしようにも、弟や妹の友達が毎日のように遊びに来ていて、うるさいことこの上ない。彼氏ができて電話したくても、部屋にいれば弟にからかわれる。外に出て電話をしようものなら、無駄に貞操を重んじる祖父に
「色気付いて気持ちが悪い」
と言われる。電話をしているだけなのにその言いようはないだろう、と思うが、その家の中心は祖父だったので誰も何も言えなかった。
こんな家出て行ってやる。早々にそう決めて遠く離れた大学を受験し合格した。
お金がかかるだとか、弟や妹のことを考えろとか責め立てる祖父母や父に、
「下宿代も光熱費も何もかも私が働いて払います、学費も奨学金が出るからそんなに高額にはなりません」
と言い放ち、逃げるように実家を出た。
しかし実際、家賃や光熱費や携帯代を全て自分で賄うのはかなりきついことだった。バイトは2つ掛け持ちし、長期間の休みには単発のバイトも入れた。休む暇などない。
勉強のために大学に入ったはずなのに、ほとんどバイトがメインの生活になっている。
そんな生活を1年ほど続けた大学2年の夏休みのこと。
肉体的にも精神的にも限界が来たのか、居酒屋でのバイト中に倒れてしまった。
居酒屋で働いていた3つ上の女性が教えてくれたのが、この『おやすみテレフォン』だった。
「夜にかかってきた電話の対応するだけだよ。月10万は稼げてるし、倒れるくらいならやってみれば?」
胡散臭いな、とは思った。しかし背に腹は変えられない。実際体も動かなかったし、当分働けそうになかった。
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