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それは冬休みのある日のことだった。
私はお盆もお正月も実家には帰らずに過ごした。祖父と顔を合わせたくなかったのもあるし、なによりバイトと課題に追われていたから。
『おやすみテレフォン』で月10万円ほど稼げても、光熱費や家賃にほとんど消えてしまう。以前よりは肉体労働系のバイトを減らすことができたので、身体的に余裕はできた。だが金銭的な余裕を持つためには、他のバイトを続ける必要があった。
その日も『おやすみテレフォン』の仕事が来た。
見知らぬ番号が画面に表示される。私はいつものように、2フレーズ分待って通話ボタンを押した。
「はい、『おやすみテレフォン』のスミレです」
電話の向こうで、一瞬息を呑んだ気配がした。
「…こんばんは」
男性のその声を聞き、次に息を呑むのは私の方だった。
──お父さんだ。
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