おやすみテレフォン

6/11
前へ
/11ページ
次へ
それは冬休みのある日のことだった。 私はお盆もお正月も実家には帰らずに過ごした。祖父と顔を合わせたくなかったのもあるし、なによりバイトと課題に追われていたから。 『おやすみテレフォン』で月10万円ほど稼げても、光熱費や家賃にほとんど消えてしまう。以前よりは肉体労働系のバイトを減らすことができたので、身体的に余裕はできた。だが金銭的な余裕を持つためには、他のバイトを続ける必要があった。 その日も『おやすみテレフォン』の仕事が来た。 見知らぬ番号が画面に表示される。私はいつものように、2フレーズ分待って通話ボタンを押した。 「はい、『おやすみテレフォン』のスミレです」 電話の向こうで、一瞬息を呑んだ気配がした。 「…こんばんは」 男性のその声を聞き、次に息を呑むのは私の方だった。 ──お父さんだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加