4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
不審な若者
坂井裕一
23歳男 職業引きこもりニート
俺はボロいアパートの一室、ゴミ溜めに住んでいる、ゴミみたいな人間だ。
既に足の踏み場もなくなった立体の空間は、誰とも接触をはからない俺には最高の住処である。小さい頃、カブトムシの幼虫を育てた小さな虫かごを思い出した。
髪はゴワゴワで、身体からも汚臭しか漂わなくなった。
(そういや、風呂もろくに入ってねぇな。)
ゴミに埋もれた自分の体を無理やり動かして、道なき道をゴミをかき分けながら進んでいく。
圧倒的に多かった酒の缶を蹴っ飛ばし、洗面台にたどり着いた。
鏡にうつった自分の顔を見るに、どう見ても20代の顔ではなかった。
のびきった髪、のびきった髭
そんな自分を見ても、もう悲しくもなんともなくなっていたのが、悲しかった。
死んでるのか、生きてるのか分からなかった。
死ぬ勇気も、生きる意味もない自分は無駄な人間でしかない。
必要とされない人生。
『なんか、画一的なんだよな』
うるさい。
『つまらないな君は』
うるさい
『どうしたんだ、前はこんなんじゃなかっただろ』
うるさい!
黙れ。
ふと気づけば俺の拳は鏡を殴っていた。
だがそいつはびくともしないで、ただ手だけが痛んだ。
はぁ、はぁ、はぁ…
(くそ、くそくそくそ)
頭痛がする頭を抱えながら、その場にうずくまる。その場に放ってあった精神安定剤をガリガリと噛み砕き、また小さく身体を抑え込む。
この発作が始まったらそれの繰り返し、こんなんだから社会にも出れない。普通の生活ができなくなった。まあ、普通ではなかったが。
会社勤めもバイトもしたことがなかった俺は、何もできなかった。自分が惨めで、愚かで、俺は小さい子供のように泣きわめいた。
*
のも、つかの間
ゴシゴシと自分の服の裾で目元を拭き、ため息をついた。
(おなかすいた)
俺はぼんやりと立ち上がる。
テレビでたまにやっていた薬物依存者の特集。それを見てアホだとおもっていた自分だが、そんな自分も今は馬鹿にしていた人間と同じ、薬物依存者だ。
最初のコメントを投稿しよう!