不審な若者

1/5
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

不審な若者

坂井裕一 23歳男 職業引きこもりニート 俺はボロいアパートの一室、ゴミ溜めに住んでいる、ゴミみたいな人間だ。 既に足の踏み場もなくなった立体の空間は、誰とも接触をはからない俺には最高の住処である。小さい頃、カブトムシの幼虫を育てた小さな虫かごを思い出した。 髪はゴワゴワで、身体からも汚臭しか漂わなくなった。 (そういや、風呂もろくに入ってねぇな。) ゴミに埋もれた自分の体を無理やり動かして、道なき道をゴミをかき分けながら進んでいく。 圧倒的に多かった酒の缶を蹴っ飛ばし、洗面台にたどり着いた。 鏡にうつった自分の顔を見るに、どう見ても20代の顔ではなかった。 のびきった髪、のびきった髭 そんな自分を見ても、もう悲しくもなんともなくなっていたのが、悲しかった。 死んでるのか、生きてるのか分からなかった。 死ぬ勇気も、生きる意味もない自分は無駄な人間でしかない。 必要とされない人生。 『なんか、画一的なんだよな』 うるさい。 『つまらないな君は』 うるさい 『どうしたんだ、前はこんなんじゃなかっただろ』 うるさい! 黙れ。 ふと気づけば俺の拳は鏡を殴っていた。 だがそいつはびくともしないで、ただ手だけが痛んだ。 はぁ、はぁ、はぁ… (くそ、くそくそくそ) 頭痛がする頭を抱えながら、その場にうずくまる。その場に放ってあった精神安定剤をガリガリと噛み砕き、また小さく身体を抑え込む。 この発作が始まったらそれの繰り返し、こんなんだから社会にも出れない。普通の生活ができなくなった。まあ、普通ではなかったが。 会社勤めもバイトもしたことがなかった俺は、何もできなかった。自分が惨めで、愚かで、俺は小さい子供のように泣きわめいた。 * のも、つかの間 ゴシゴシと自分の服の裾で目元を拭き、ため息をついた。 (おなかすいた) 俺はぼんやりと立ち上がる。 テレビでたまにやっていた薬物依存者の特集。それを見てアホだとおもっていた自分だが、そんな自分も今は馬鹿にしていた人間と同じ、薬物依存者だ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!