10人が本棚に入れています
本棚に追加
雲行きが怪しい
宏和は電車の冷房に当たってほっと息をついた。
七月中旬、梅雨が明けて夏がやってきた。部活動に勤しむ高校生らしく、土曜の朝から暑苦しい柔道場に閉じこもり、解放されたのは正午過ぎ。その後、友人二人とファーストフード店で昼食をとったため、店を出るころには午後二時近くになっていた。ぎらぎらと照り付ける太陽の下をたっぷり歩いてようやく電車に乗り、今に至る。
土曜の午後というだけのことはあって、車内はがらんと空いていた。からっぽの座席に三人そろって腰を下ろす。
「あっつ」
低く唸ったのは、友人二名のうちの一人、章臣だった。先ほどまでは少し伸びた髪をハーフアップにしていたが、今はそれでは足りないとばかりに全部まとめあげている。
色白で繊細な顔立ちと上品な名前に多くの人がだまされるが、実際にはひどく短気で怒りっぽい性格だ。ヤンキー映画の主演に出てきそうだ、と宏和は常日頃から考えているが、まだ本人には言えていない。
「急に暑くなったね。頭がぼーっとする」
三人に内で最も大柄なこちらは誠司という。優しい言葉遣いと顔立ちから想像がつきにくいが、二年にして柔道のインターハイ出場を決めた期待のエースだ。期待のエースを通り越して、先輩方や監督からは神様のように扱われている。何故なら、万年弱小校だったわが校からインターハイ出場者が出ること自体、初めてだったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!