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「では、まず入社志望の動機をお聞かせください」
進行役の中年男性が言ったのを受け、考えてきたことを僕は語り始めた。
僕が話す一言一句、そして言葉には出ない人柄をキャッチしようと、皆が隠し立てすることもなく聞き耳を立てている。
僕の利き耳に入ってくる彼らの心の声は、まるで街で面白い話題を取材しようとしているかのような、純粋な好奇心で多くが占められていた。
自己アピールの合間、一人一人に利き耳の照準を合わせていると、ひときわ強い聞き耳を立てている面接官に気が付いた。
(わたしが立ち上げた新聞を託せる後進を見つけていかないとね。この青年はどうだろう)
見たところ四十代半ばといったところだろうか、居並ぶ面接官の中では年若い方だ。だけど、この人はもしかして。
「数多あるメディアの中で、弊社を志望したのはなぜですか」
「第一に、会社概要で拝読した創刊の理念に共鳴したからです。新聞報道を通じて新しい地域社会を切り開こうとする佐々木社長の展望に惹かれ、……」
合同説明会のあと新聞紙面やウェブサイトを見て研究を重ね、固めてきた思いを言葉に込めながら、僕は一番端に座るその女性の眼をしっかりと見据えた。
目線の先で、女性社長が驚くのが見えた。
「確かに、わたしが社長の佐々木晶です。会社概要には代表者氏名だけで顔写真はないのに……よくわかりましたね」
隣で「男っぽい名前だし、年齢的にもだいたい僕が社長と間違えられるんだけどねえ」と顎に髭を生やした白髪交じりの男性社員が笑う。
場の雰囲気が一気に和やかになった。
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