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「まさか……」
なんであなたが生きてるの?死んだんじゃないの?ねぇ、あなた知ってるの?小夜子は死んだよ?あなたなんかにかまってたせいで───。
「助けて下さい……」
どれだけ図々しいの、あなたは……。私は目の前の受け入れがたい現実を目の前にし、我慢ならない思いのすべてをこの負傷兵に向けようとした。
ただ、私もそのようなことをする体力は残っておらず、更には洞窟を出る気力も残っていなかった。そんな中、そんな無念を少しでも晴らすべくある考えに辿り着いた。
せめて小夜子を身代わりに生きながらえたこの負傷兵の死に際を見届けよう。この厚かましく愚かな負傷兵が最後に何を見せてくれるか───。
狂気。
この言葉以外で言い表せない。ただ、同時にどこか魅惑的な考えのようにも感じた。私はその負傷兵の最後に興味があったのだ。
「わかりました、少し待っていてください」
私は、重い体を起こし洞窟の奥に飛ばされた例のリュックを取りに行き、中に入っている医薬品を取り出そうとした。
しかし、薬の瓶は既にほとんど割れていた。それでも、無事なものはないか漁っていると包帯の束に守られた小瓶と注射器が一組あった。
「モルヒネか……」
鎮痛剤であるこの薬では根本的な治療にはならない。ただ、もうすぐ死ぬであろう負傷兵にとってはこの薬の方が良いかも知れない。注射器で適量を吸い上げ、針先を彼の右腕に押し当てる。
「痛み止めを打ちます。ゆっくり息を吐いてください。そのうち効いてくると思います」
少しずつ薬液が彼の体に流れ込んでゆくのが注射器を握る手を通して伝わってきた。
その後、包帯を交換し直すなど、治療と言ってよいか分からない治療を一通り終え、負傷兵を簡易ベッドに寝かせようとした。
しかし、ほとんどの簡易ベッドは使いものにならない状態であり、唯一使えそうなベッドには小夜子の遺体を安置していた。
「この際、これでも仕方ないか……」
私は彼の頭を自分の膝の上に乗せ、様子を見ることにした。
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