5人が本棚に入れています
本棚に追加
地を揺るがす轟音と共に粉塵が高速で洞窟に吹き込んでくる。
「のり子!何してるの!早く来なさい!」
小夜子はそう言って必死の形相で洞窟の入り口付近から私に呼び掛けている。彼女は私の通う女学校の同級生であり、無二の親友である。
「でも、まだ兵隊さんが……」
「何言ってんの!もうそこまで弾が飛んできてんのよ!リュックを持って早く!」
こうしている間にも榴弾や迫撃弾が至近距離に雨のように降り注いできている。今避難しなければもう逃げられない……。
「わかったよ、小夜子。今行く!」
私は傍に置いてあった赤十字マークの付いたリュックを手に取り、立ち上がろうとした。
しかし、手に取ったリュックをいくら引っ張っても持ち上がらない。困惑し、手に取ったリュックに視線を落とした。
「行かんでください、女学生さん。頼みます……」
さっきまで簡易ベッドの上で意識が朦朧としていた負傷兵だった。この洞窟の中で唯一の負傷兵だ。他はロクに治療することも出来ず、亡くなった。年齢は25歳くらいだろうか。痩せた男だった。内臓を激しく損傷しており、到底助からないであろう状態であったため、置いていくことにしたのである。薬包紙に包んだ青酸カリと共に。
「あ、いや……。その、……」
どうしよう……。どうすれば……。頭が真っ白になった。
「のり子はもう行きますから!離してください!」
ハッとして、我に返った。小夜子だった。私の様子を見かねて、リュックにしがみつく負傷兵の手を無理やり引きはがそうとしている。
「小夜子、そんな乱暴しなくても───」
そう言って小夜子の肩に手を当てようとした、その瞬間だった。
太陽の光の何倍もまぶしく、汚い光が差し込んだかと思うと砂利混じりの爆風が吹き込んできた。
目の前に弾が飛んできたのね───。
そんなことを想像したのを最後に私は気を失った。
最初のコメントを投稿しよう!