ずっと守られた約束

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詩が家を出て、また夫婦ふたりだけの生活にも慣れた頃。 いつものように、隣同士に布団を敷き話しながら寝落ちしてからどれくらい経った頃だろうか。 寝入っている次郎を文が起こす声が聞こえて次郎は眠い頭で、かろうじて、どうした?と聞くと手を繋いで欲しいと言ったのだ。 何故なのかと聞いてやれるほど目覚めていない次郎はとりあえず手を繋いで寝てしまった。 新婚時代は毎日、手を繋いで寝ていたが、それもかなり前の話だった。 朝になっても忘れていて文に聞くことはなかったが、今にして思えばあれはなんだったのか。 この年になれば、手を繋ぐこともない。 触れ合うと言えば、服を着た時に襟を直して貰う時とか何かを渡す時とか買い物に行った時、文の手提げを持ってやる時くらいなものだった。 「手を繋いで欲しい」と言った日から三日後に文は突然、亡くなってしまった。 どこも悪いところなどなく、くすりも飲んでいなかったのに。 文の虫の知らせだったのだろうか。 次郎はあの事をなぜ変だと思わなかったのかと、自分を責めていた。 でも文だってわかっていなかったのかも知れない。
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