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スタート 涼 : side
「父親がいないなら、その子をおろせ」
俺は今、生まれて初めて人を殺したいくらい頭に血が上り、全身の毛穴すべてが噴火口となったように怒っている。
その相手を知れば今直ぐにでも殺しに行きたいのだが、相手について「語ることがない」のように全く口を開こうとしない義弟に、少しでも凶暴な怒りが発散するために、あえてひどい発言を向けた。
言ったことは後悔していない。
本心で思っているのだ。
「涼(りょう)、あなたの気持ちが理解できないわけじゃない!
だからと言って、そんな恐ろしい言葉を言って許されると思うのが大間違いよ。
頭を冷やしてきなさい。」
義弟の横に置いてある椅子に座っている母は俺が吐き出した言葉を聞いた瞬間、ぽかんと驚いたように目を見開き、すぐに怒りをこめった鋭い眼に変え、俺に睨みつき、怒りで赤くなった顔でそう言った。
「言われなくても、こんな場所に居たくねぇよ」
乱暴な甲高い声で母に返した後、分厚い高級感のあるダブルサイズのベッドに座り、ベッドヘッドに背中を預かっている義弟に一瞥し、病室のドアノブを掴んでドアを開けてから怒りに任せたまま、
ぱあん、という音が響くように思いきりドアを閉めた。
目の前にある広い客室のソファに座っている父は冷めた目で俺を一瞬だけ見た後、
両手を組んだまま、義弟がいる病室の方向に顔を向け直し、大きなため息を吐いただけで、何も言わなかった。
父の反応を見て、俺も無言のまま外に出るためのドアノブを掴んでドアを開けた後、また力任せで大きいな音を立ててドアを閉めた。
もちろん、ここは病院であることが承知の上だ。
病院だろうが、教室だろうが、どこであろうが、俺には関係ない。
とにかく、だんだん湧いてくるこの荒れる感情を発散したい。
無駄に広いエレベーターホールのボタンを押し、ピンという音と共に到着灯が表示した。
扉が開いてから中に足を運んで、1階のボタンを押した後、扉が閉まったことを確認してから耐えきれない感情を口に出して、エレベーターの壁を一発殴った。
ドン!!という音がエレベーター中に響いた。
「くそ、ふざけるな」
痛みを感じるのがちょうど良い、少しだけ怒りを減った気がする。
しばらく経つとまたピンという音が鳴り、目的のフロアに到着したことを表した。
俺は気持ちを取り返し、姿勢を正してから、開いてある扉に歩き出した。
エレベーターホールには高級感が満たされているシャンデリアが照らし、
輝く灯りの下を歩きながら、出口に向けて広いホールを通り過ぎていく。
(ふっ、本当にここ、病院なんかよ)
何度も来たことがあるのに、病院だという実感がまったくないホールに一瞥し、大きくため息を吐いた。
自動ドアを出てから目の前に広がっている駐車場の方向に向かう。
信じられないくらいこの山王病院の面積が大きく、港区だというのになんでこんなにでかいだよ。
どれくらい金を使ったのか。
そう考えているうちに、目的地のところ見えてきた。
そこには、黒色のフラグシップスペシャルモデル「アヴェンタドールS」7台限定で生産されたランボルギーニがエンジンのかかったまま、V I P客専用に止めてある。
俺は真っ直ぐそこに歩いていき、助手席のドアを持ち上げ、疲れた体を預けた後、ドアを閉めた。
きょろきょろと俺の表情を窺いながら、運転席に座っている幼馴染兼、親友の佳壱(かい)はこっちに向かって口を開いた。
「すげぇー、ひどい顔だなぁ」
佳壱の言ったは正しい。
ただ、それはエレベーターを一発殴ったことと、騒いでいた病院のホールの様子を見たことで少し和らいだ顔だ。
きょろきょろとした目をちらっと見るだけで、怒りがまた湧き出して思わず眉間に皺を刻んだ。
「あいつ、相手の名前まったく言わなかったんだよ」
佳壱の方に目線もやらないまま、大声で話した。
俺が言った内容と反応を見て、佳壱がまた口を開いた。
「はぁー、あいつが本当に妊娠したのだな。
しかし、一体相手はどこのどいつだ!
俺、正直今でもまだ信じられないな。」
俺は佳壱の方に目線をやると、ちょうどこいつの目とあった。
こいつも眉間に皺を刻み、その相手を怒って怒って痛めつけたいことがその表情を見てすぐにがわかった。
少しだけ見合ってから互い正面の方に視線を戻して、ため息を吐き出した後深呼吸した。
本当に、こいつを連れてくることが正解だという思わないといられない。
保育園からずっと一緒にいて、一緒に遊び、同じ布団で昼寝をしたり、互いの誕生やクリスマスなどでプレゼントを交換したり、何よりも互いの気持ちをよく理解している。
楽しいことや辛いこと、悲しいこと、何でも共有し合っている仲だ。
こいつがいることで、自分と同じ気持ちを持っている人間がいるということをわかるだけで、
怒りがだいぶ治めることができて少し気持ちが楽になった。
(あの、父親と母親の態度をみて、余計に苛立った一方だからな。)
何せ、まったく義弟に対する文句や相手のことを聞き出そうとしないのだ。
あいつがこの年で妊娠させた考えら無しの男に殴り殺すをしない限りこの怒りが絶対に消えることがないのだと、自分の性格をよく知っている。
周りから、『義弟のことになると、涼は全然自分をコントロールできない』だと、よくからかわれている。
言われなくても、自分でもよくわかっている。
自分が過保護であることと、何よりあいつのことを思って行動を起こしてきたこと、あいつが大事で、命をかけて守りたいと心から思っている。
ただ、あいつに対するこの感情は恋なのか、ただのブラコンなのかは自分でもよくわからない。
「俺、あれからずっと調べた。あらゆる手を使ったが、全然情報を掴まえない」
「俺だって、親父の手下も使って調べさせたけど、いつどこで相手と会ったのか、すっぱりだ」
「あいつはどうだ?」
名前を言わずとも、聞きたい人物をすぐに察した佳壱は俺の質問に対して、若干嫌な声で答えた。
「裕も、熱心に調べたんだぜ。
ていうか、あいつが一番辛いからお前、いい加減、あいつだと言うなよ!」
俺に向かって、批判的な発言をしたこいつをふと見て、まだ結んでいる眉間をより深くなった。
「ふん、よくも婚約者のツラをしてたな。
結局、婚約者をこんな目に合わせたじゃないか!
最上級アルファ、聞いて呆れるわ」
目じりを険しく吊り上げて、佳壱の横顔を一瞬だけ目をやって、あざ笑った。
皮肉な言葉を言う価値すらなかった。
あいつは義弟を守れなかった。
命を捨てても、守るべき存在が守れなかった。
あいつは誰でも手に入れることができない婚約者の立場を勝ち取った。
義弟の愛情を独占したあいつが、義弟の腹にいる子供の父親ではない。
ましてや、子供の父親も誰なのかも知らない。
本当に、皮肉な言葉をかける価値もないな。
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