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「夢の中へ」
「おやすみ」
そう言って、僕は君のもとへ会いに行く。
*
君がいなくなって、しばらくたった。
僕の身の回りには、君との思い出が残っている。大切で大事なものなはずなのに、それが僕を苦しめる。君を失ったという現実を突きつける。喪失感や虚無感だけが僕の中で、渦巻いている。
最後に君の手を握り締めた時の冷たさを忘れられない。
こんなにも君がいない現実が辛くて、苦しくて、寂しい。
もう、なにも見たくない。なにも、いらない。君との思い出も、捨てて、忘れてしまいたい。そう思っていても、できるはずがないのに、こんなことを考えている自分が嫌で、しかたがない。
もう寝よう。目を閉じて、僕は意識を手放した。
微睡む中で、君が呼んでいるような気がした。
目を覚ますと目の前には、君がいた。
「うわっ」
君はしてやったりな顔で、僕を見ていた。
「寝てると落ちちゃうよ」
「え?うわっ」
僕は二度目の驚愕した声をあげた。
僕たちは、魔法の絨毯のようなものに乗って、空を飛んでいた。
「風が気持ちいね」
なんて、呑気なことを言って、笑う君の顔がとてつもなく愛おしかった。
こんな空を飛ぶなんて、ありえないことなのに、そんなことが、どうでも良くなってしまうほど、君に会えたことが嬉しくてしかたがなかった。
黄昏時の空に、星が滲んで見えた。
君も、目を奪うような綺麗な景色も、ありえないことなのに、夢だと疑うことはなかった。
「君が遠くに離れていても、絶対会いに行くから」
君が口を開きかけた時、突風が僕たちを襲った。
また、夢が覚めた。
「なんでだよ」そう言って、唇を噛み締め、涙が頬を伝った。
何度も、何度も、何度も、君に会いに行っては、目が覚める。もう、こんな世界なんて、君がいない世界なんて、いらない。
今度こそ、今度こそ、暗くて深い、底へ落ちよう。
「おやすみ、今会いに行くね」
僕は意識を手放した。
*
光から遠ざかっていき、底へと沈んでいく。深い、暗闇の中に引き込まれる中、僕を呼ぶ声がした。今までにない、はっきりとした声で聞こえた。
どうして、そう思った時には、君に抱きしめられていた。
「また、夢かな」
自嘲気味に呟いた。
「夢じゃないよ。夢なんかじゃない。」
君は泣きながら、言った。
「来るのが早すぎるよ」
「そっか、やっと会えたね」
僕は噛み締めるように、強く抱きしめ返した。
綺麗な星空の下を歩く。もう二度と、君を手放さないように、強く、強く手を繋ぐ。
「ずっと、一緒だよ」
そう言って、君に笑いかけて、僕は覚めない、深い眠りに落ちた。
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