トラウマメモリー

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真記は高校一年生の頃、年上で大学生の晃良(アキラ)と付き合っていた。 『真記、今暇? 会いたいんだけど』 『うん! 大丈夫だよ!』 この頃の真記は笑顔が絶えなく、髪はショートカットで元気なイメージの女子だった。 周りにも気を遣えて優しく容姿もいいためかなりモテていた。 順風満帆でこの先の人生に憂いなどない、学力や職業で言えば一概にも言えないが日々は充実していたのだ。 そんなある時晃良からデートの誘いが来て全て狂ってしまった。 ―――晃良から会いたいって言われるの嬉しいなぁ。 連絡を見て顔を綻ばせる。 真記は晃良のことが大好きだった。 ―――とても優しく人思いで温かい人。 ―――そんな素敵な人と付き合えるなんて嬉しい。 付き合った当初の晃良はそのような印象だった。 晃良はまさにリア充な大学生といった感じで、元気な真記と上手く釣り合っていた。 誘いも最初は普通にデートをして楽しい時間を過ごす。 時間が経つにつれ少しずつテンションも上がり心臓もドキドキと拍動した。 夕方になりそろそろムードたっぷりの夕食でも、そんな風に考えていた時、晃良が思い出したように言うのだ。 「そう言えばさ。 真記のことを俺の友達に紹介したいんだけど、いいかな?」 「え、本当!? いいよ!」 他に彼氏ができた時もよく真記は彼氏の友達に紹介されていた。 紹介しても恥ずかしくないという理由でよく友達に会わされる。 自慢できる彼女、そう思われているのが嬉しかった。 ―――友達に紹介できる程、私は信頼されているのかな? ―――そうだと嬉しいなぁ。 そう思っているとあるモノが目に入る。 「あ、そのストラップ! 付けてくれているんだ」 晃良のズボンに一つのストラップが付いていた。 この前渡した真記の手作りでお揃いのものだ。   「当たり前。 つか『私のことが嫌いになったら捨ててもいいよ』って言ったのは誰だよ」 「私です」 大切に肌身離さず持ってくれているのが嬉しかった。 「そうだ! 晃良のお兄さんにも私を紹介してよ」 「あー・・・」 「晃良はお兄さんのことを凄く慕っているんでしょ? どういう人なのか会ってみたい!」 「・・・そうだな。 いつかな」 ―――・・・またそれかぁ。 いつものように濁すように返された。 晃良には二つ上の兄がいると聞いているが、その兄にだけはまだ紹介してくれなかったのだ。 ―――別に両親に会わせてなんて言っていないのに・・・。 ―――お兄さんと会うとマズいことでもあるのかな? 晃良の両親は自由奔放主義で駄目な親だから会わせたくないとのことだった。 だから晃良の両親については紹介も無理強いはしていない。 ただ気兼ねない付き合いができるといった兄とは話してみたかった。 だが別に急いでいるわけではなく、いつかはそのような日が来るだろうと漠然と考えていた。 「ここだよ」 連れてこられたのは薄暗いバーのようなところだった。 「・・・バー? 私が入ってもいいの?」 「入るくらいなら大丈夫だよ。 酒は飲むなよ? まぁ、飲もうとしたら俺が止めるけど」 常に真記を気遣ってくれ、それが嬉しかった。 バーといえば大人の場所。 雰囲気もよく気持ちも高ぶる。 中へ入ると九人の男女が集まっていた。 女子は二人だけだ。 「その子が晃良の彼女? 可愛いじゃん」 「だろ? 俺の自慢の彼女」 どうやら紹介したいというのはこの男女九人のことのようだ。 見た目がチャラそうで真記としては、少し恐怖も感じる。 だがそれは女性なら至極当然のことだと思っていた。 この後は軽く自己紹介をしてから楽しんだ。 だが酒が苦手な真記にとって酒やタバコの臭いはキツかった。 「真記は酒が飲めないからジュースを用意してやってくれ」 バーの店員も晃良と知り合いのようだ。 もはや貸し切り状態なのだろう。 晃良の友達はチャラい見た目だったが、とても気さくで楽しい時間を過ごせた。 だが約二時間後、何となく店の雰囲気がおかしくなっていた。 「晃良ー。 そろそろいいかー?」 「ん? あー、そうだな。 真記も大分この雰囲気に慣れてきたことだし」 「?」  状況がよく分からず首を傾げていると、突然両サイドにいる男が肩を抱いてきた。 ―――え? ―――急に何・・・ッ!? そのまま身体をチェックするように真記の身体を撫で始める。 「真記ちゃん細いねー。 俺たちが食べちゃうの勿体ないくらいに肌綺麗だし」 「食べる・・・?」 恐怖に震えていると晃良が言った。 「一応ソイツは俺のだからな? 手荒なことはすんなよ」 「ケチだなー。 じゃあ諭吉を三枚増やすからさー」 「少ないな」 「じゃあ諭吉五枚!」 「おぉ・・・」 その発言に晃良の表情が変わった。 「一人五枚追加だぞ? 大分金が入るだろ」 「・・・まぁ、そうだな。 なら真記を好きにしてもいいよ」 ―――ッ・・・! 囲んでいる男たちの目の色が変わり、本能的に襲われると思った。 そして同時に自分は晃良にお金で売られたのだと悟った。 「嫌・・・! 晃良、助けて・・・ッ!」 助けを求めるも晃良は何も言わず、ただ真記を見下ろして笑うだけだった。 最初から晃良はそのつもりで真記に近付いてきていたのだ。 「そんな・・・」 「晃良のことは気にせず俺たちと楽しいことをしよー?」 男たちの気味の悪い手が伸びてくる。 それは無遠慮で、真記に対する情けなど欠片程も見せなかった。 「助けてください!」 縋るように二人の女子に助けを求めた。 だがケラケラと笑うだけで手助けをしてくれる気配は一切なかった。 結局、全員がグルだったのだ。 「晃良も混ざろうぜー?」 その言葉に晃良は一瞬切な気な表情を見せる。 「・・・あー、俺はいいや。 ちょっと外の空気を吸ってくる」 「えー。 晃良がいるからこそ盛り上がるのにー」 晃良はここから出ていった。 もう助けを求めることができる相手はいない。 ―――どうしよう・・・。 どうしようもできなかった。 一人の高校生の女子の力なんて、集団の男たちの前では無に等しい。 抵抗することすら許されず、されるがままになった。 あまりのことに意味が分からず茫然自失、殺したい程に憎いが真記にはそんな力がない。 ポジティブで明るかった真記はその日を境に消え去り内向的で鬱々とした性格となった。 裏切りからトラウマとなり男女共に人を信じられなくなったのだ。
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