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三人の男たちに囲まれている中、過去の記憶が蘇り吐きそうだった。 それでも抵抗したのは、抵抗しなければ悲惨な目に遭うことが分かっていたからだ。
「止めて、ください・・・ッ!」
「え、何? 聞こえないなぁ」
「止め・・・。 離して!」
「本当に嫌なら本気で叫ばないと。 そんな弱い声じゃ、誰も助けにきてくれないよ?」
「ッ・・・」
本当に怖いと声が出なくなる。 叫んで助けを呼ぶというのは実はかなり大変で、過去の経験上できないと分かっていた。 自然に喋る分には声が出るが、いざ大声を出そうと思うと声は出ない。
―――それ以前に信用できない人に助けてもらうなんて、有り得ない・・・!
それが一番の問題でもある。 誰も信用できないのに、誰に助けを求めればいいというのだろうか。
「本当はこのまま強引に連れていってほしいだけなんじゃないのー?」
「違ッ・・・」
もがいていると近くから別の声がかかった。
「お兄さんたち、何してんの?」
「はぁ?」
誰かが来たことにより掴まれていた力が弱まった。
「彼女、嫌がってんじゃん。 離さないなら警察を呼ぶよ?」
「お前は誰だ?」
「・・・その子のツレだけど?」
その言葉を聞き真記はゆっくりと顔を上げる。 するとそこには高校一年生の時に付き合っていた晃良が立っていた。 誰よりも信用できない男が自分を助けようとしているのだ。
「ッ・・・!」
目が合い咄嗟に俯く。 復讐したい気持ちはあるが、怖いしそんな度胸は真記にはない。 真記を捕まえている男が無理矢理顎をすくった。
「おい。 本当にコイツの知り合いなのか?」
「・・・」
安心させるようになのか晃良はフッと笑った。 だがその笑顔が憎たらしかった。
「・・・知りません。 こんな人」
「おいおい、それマジかよ?」
キッパリと言ってそっぽを向く。 一番驚いていたのは晃良だった。
「何だよ、知らねぇじゃん。 じゃあどうしてもいいよなぁ?」
「ったく・・・。 まぁ、いいけど。 とりあえず警察に通報させてもらうわ」
晃良は溜め息交じりでそう言うとスマートフォンを取り出した。
「俺がツレだろうがツレじゃなかろうが、彼女が嫌がっているのは事実なんだから」
「お前・・・ッ! ナメたことを言ってんとボコって沈めるぞ!?」
そう脅してここから移動させようとするが晃良は怯まなかった。
「それ、リンチ宣言? これで正当防衛成立だな」
「はッ!?」
晃良は目にも止まらぬ動きで男たち三人をボコボコにした。 彼らは地面に倒れ、晃良はそれを見て満足気に手を払う。
「ぐぅッ・・・」
どんな理由でも暴力は怖い。 力では完全に晃良に勝てないと分かり足が震えている。
「おい、お前大丈夫か?」
「ッ・・・」
真記は怖くなり膝がガクガクとしたままこの場から逃げ出した。 捕まれば昔みたいな目に遭わされると思ったのだ。
「おーい。 礼もなしかよ」
―――殺してやりたい程憎かったけど無理だ。
―――私では勝てない。
―――・・・今は、逃げないとヤバい。
「そっちへ行くなー! 危ねぇぞー」
背後からそのような声が聞こえる。 振り返ると晃良は軽く走りながら追いかけてきていた。
―――本気で走れば簡単に追い付けるのに。
わざと緩々と追い詰めてきているように思えた。
『助けたんだからまた前みたいに金づるになってよ』
もう一度対面すればそんなことを言われる気がした。 自分は圧倒的に弱い立場なのだ。 ひたすら逃げることしかできない無力な存在だ。
―――・・・え?
だが足が止まった。 いつの間にか怪し気なポスターが散見するホテル街まで逃げてきていたようだ。
―――嘘・・・。
本能的な嫌悪感が全身を走る。 一秒でもここにいたくないし、空気も吸いたくないような気分。 更に憎らしいことに自分に話しかけてくる男がいる。
「あれ? 彼女、一人?」
「ッ・・・」
なんて酷い日なんだろうと思った。 自分はただ影のように隠れて平穏に生きていきたいだけなのに。
「いい仕事があるよ?」
「違ッ・・・」
「ここにいるということは、そういうのを望んできたんでしょ?」
「そうじゃ、なくて・・・」
たじろいでいると横からガッと手首を掴まれた。
「止めッ・・・!」
振り払おうとするが無理だった。
「来い」
そのまま引きずられるように真記はこの場から離れていく。 手首を掴んだ人を恐る恐る見上げると、予想通り最も憎らしい晃良だった。
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