トラウマメモリー

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必死に首を振って抵抗してみるが、掴まれた腕を解くことはできない。 付き合っていた頃は分からなかったが、その細腕からは信じられないような力を持っている。 もちろんそれは真記と比べてではあるが、大の男三人を倒したところから見ても、喧嘩慣れしてるのは間違いなかった。 「嫌ッ・・・。 離して!」 「いいから黙って付いてこい」 「絶対に嫌ッ!」 「あのままだったら人生を狂わされて外国にでも売られていたぞ?」 その言葉にムキになった。 「私の人生を狂わしたのは貴方の方じゃない!!」 「ッ・・・」 知らない男に捕まっても晃良に捕まっても結果は同じだ。 必死に逃げようとするも男の力には敵わない。 ―――助けを、呼ばなきゃ・・・。 晃良は手に力を込めるだけで離してくれる様子は一切ない。 助けを求めるため口を開こうとするもすぐに閉じた。 ―――・・・いや、無意味だ。 “こんなところを誰かに見られたら流石に止めてくれるのでは?” そう思ったがすぐに排除した。 あの時、女性二人に助けを求めたのに止める素振りすら見せなかったことが記憶に蘇る。 ―――・・・どうせそんな人がいても、助けるフリをして結局自分を食いものにするだけ。 ―――だから助けを求めるだけ無駄なんだ。 人通りの多い場所まで来るとようやく手を離してくれた。 「ここまで来たら大丈夫だな、って・・・」 「ッ・・・」 手を離した時に腕を見られてしまった。 咄嗟に腕を隠す。 晃良が掴んでいた真記の腕は蕁麻疹で酷いことになっていた。 「その腕・・・」 「・・・」 人間不信になってから人、特に男性に触れられると蕁麻疹が出るようになってしまった。 女性相手ではあまり出ないが、男性相手だとほぼ確実に蕁麻疹が出る。  ―――見られた・・・? 肌を日頃隠しているのはそのせいで、人に万が一でも直接肌を触れられないため。 今は逃げようとしたところを捕まったため、肌の露出した手首を掴まれてしまっていた。  ―――でも、傷は見られていない・・・。  幸いなのかは分からないが、掴まれたのは右手だったため無数の傷が刻まれケロイド状になった左手首は見られていないようだ。 バンドで隠してはいるが何となく晃良に見られるのは嫌だった。 「・・・助けてくれたのは感謝している。 だけどこれ以上は近付いてこないで」 必死に震える声を張って、そう言うとこの場から逃げ出した。 真記にとって人が多い通りはあまり好きではない。 「おい! ちょっと話があるから待ってくれ!」 「付いてこないで!」 「そっちへ行っても無駄だぞ!」 また晃良が追いかけてくる。 どうやら簡単には逃がしてはくれないようだ。 ―――一体何が目的なの? 必死に真記は足を動かした。 ―――私に付き纏って一体何なの? ―――また私を売る気? 考えながらも走り続けた。 だが真記の運が絶望的に悪いのか、生憎辿り着いた先は行き止まりだった。 「嘘・・・」 「ようやくまともに話せる場所に来たな」 「ッ・・・」 振り返ると既に晃良に追い付かれていた。 「・・・どうして付いてくるの?」 「俺はお前のためにと思ってここへ来てんのに?」  その言葉に一瞬思考が停止する。 ―――私のため? ―――そう思うのなら今すぐに視界から消えてよ。 ―――・・・そのまま野垂れ死んでしまえばいいのに。 そう心の中では思うも口には出せない。 「・・・私に何の用?」 袋小路でもう逃げられないと悟り尋ねかけると、晃良は少し考えてから言った。 「あー・・・。 お前に忠告をしに来た」 「・・・忠告?」 聞き返すと晃良は真剣な表情をして言う。 「そう。 お前はこれから酷い目に遭う」 「ッ・・・」  その言葉にまたしても憎悪の炎が心の中で燃え上がった。
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