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入浴後、泣き疲れて眠ってしまったようで目を覚ますとすっかり夜になっていた。 昔は別に何とも思っていなかったが、夜が好きだ。 沈んだ心を落ち着いた暗さが癒してくれるような気がする。
ただ好きだと言ってもあくまで家にいる時の話で、トラウマから夜道を一人で歩くことは無理だ。
「はぁ・・・」
カーテンを閉め電気をつける。 窓に厳重に鍵がかかってるかのチェックも怠らない。
「お腹空いた・・・」
真記は外でバイトができないため在宅ワークで何とか稼いでいる状態だ。 そのためにスキルも磨き、裕福ではないが日々の暮らしに困らない程度には稼げている。
時刻を確認しようとスマートフォンを開いた。
―――19時過ぎ、か・・・。
その時見知らぬ番号から電話がかかってきた。
―――誰・・・?
真記は親すらも信じられなくなり一人暮らしを始めた。 真記の連絡先を知っているとしたら親しかいない。 他は誰とも連絡先を交換していなかった。
―――怖い・・・。
だが今日一日のこともあり警戒して電話に出ることはできなかった。 それでも鳴り続けるコール音。 一度切れれば諦めるだろうと思ったが、切れても再度コール音が鳴り始める。
―――両親に何かあったのかな・・・?
そう思い電話に恐る恐る出たのが間違いだった。
「もしもし・・・?」
『あ、晃良だけど』
「ッ・・・!?」
相手はあの晃良だった。 恐怖で思考が停止する。
『真記。 言い忘れたけど今日はもう外出』
我に返ると即座に電話を切った。 そしてかかってきた番号を即座に着信拒否に叩き込んだ。
―――どうして・・・。
次にメッセージが届いた。 開くとまた晃良からだった。
『今日はもう外出は控えるように。 真記は今狙われているから、外へ出れば酷い目に遭うぞ』
そのしつこさにまるで嫌がらせのように感じた。 ストーカーなのに堂々としていて執拗だ。
―――もう止めて・・・!
怖くなりこれもまた拒否をする。 これでもう連絡が届く心配はない。
―――一体どこから私の連絡先が漏れたの・・・?
―――晃良と別れてからスマホを全て変えたはずなのに。
―――・・・とりあえず、外へ出なきゃ。
この世で最も信じられない晃良に家にいるよう言われたら逆に家にいるのが怖くなったのだ。 正直、夜は出歩きたくないがそれ以上に晃良の言葉が怖い。 一種の錯乱状態というのが正しいのかもしれない。
必要最低限の荷物を持ちアパートを出ようとした。 だが驚くことにドアを開けた瞬間、晃良がそこにいて絶望した。
「「ッ・・・!」」
互いの目が合う。 晃良は怒った表情で言った。
「真記! あれ程出るなって言っただろ!!」
「そんなの信じるわけがないじゃない!」
一目散に駆け出した。 怖くて再び涙が出てきた。
「おい、待てって!」
「付いてこないで!!」
逃げれば当然のように晃良が追いかけてくる。
―――やっぱり外へ出てよかった。
―――あのまま家にいたら、また晃良に襲われるところだった・・・。
だが今日は散々走りっぱなしで、普段から運動していない真記には寝たといっても走る体力が残っていない。 このままだと捕まってしまう。
―――もう、無理かも・・・。
ピンチになった時、目の前に見覚えのある女学生が現れた。 最近何故か真記を気にかけてくれる裕香だ。
「真記さん・・・?」
走りながら泣いている真記に気付いたようだ。
「真記さん!? どうしたの?」
「はぁはぁ・・・ッ」
体力が切れて崩れ落ちそうになった。 精神的にもやられ呼吸も荒い。 裕香が支えてくれ何とか倒れずに済んだ。 それに遅れて背後で晃良が立ち止まった音が聞こえた。
だが怖くて目を向けることができないし、今は裕香がいてくれるため少し安心している。
「あー・・・」
裕香は今の状況を見て察してくれたようだ。
「追いかけられていたんだね。 怖かったでしょ? よくここまで頑張ったね」
「・・・」
「どこかお店に入ろうか? その方が安全だから」
晃良は知り合いと合流したのを見たためか諦めたらしい。
―――よかった・・・。
裕香に誘導される。 誰かと一緒に店へ入るなんて怖かったが、今は身体がもう持ちそうになかった。 だから素直に従った。
―――まだ晃良が見ている・・・。
諦めたのはいいが晃良は立ち去らず真記たちの動向を見ていた。 この時裕香が晃良に向かって理由は定かではないがニヤリと笑っていたのに、真記は気付いていなかった。
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