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すべてをさらけ出したら
竹若くんが手を引き、指についたぬめりを舐め取る。私は『味わわれたこと』を目の当たりにして、身体がいっそう火照るのを感じた。
相手が運転席に戻り、ハンドルに突っ伏して深いため息をつく。
私はこわごわ声をかけた。
「竹若……くん?」
彼はしばらく沈黙し、やがて絞り出すように言った。
「このまま家に送り届けるとか無理」
そうだ。私はしてもらったけど、彼自身はなにも行っていない。お返しをしたほうがいいのかな。
竹若くんは身じろぎせずに訴えた。
「……誰にも邪魔されない場所に行きたい」
私はビックリして返事できなかった。
身体の火はくすぶっている。その上、彼に乞われたら――。
思考がうまく働かない。飛び込んでしまいたい。
「ねぇ、どうしてこっちを見ないの?」
そうすれば、答えが分かるのに。
すると相手は肩を強張らせた。
「芝辻さんの言葉を聞かなければいけないと思って」
「……じゃあ、『本当は嫌だけど、あなたの要求を呑むべき』と考えたら、私が嘘をついても騙されるね」
竹若くんが黙り込む。
もちろん、こちらを見れば本心は一目瞭然だ。でも視線を逸らしたままだと、行き違いが起こる可能性もある。
私はつづけた。
「あなたと同じことを望んでも、言葉で拒んだら……」
「――分からないんだ。どうすべきか」
ステータスを見るとだいたいのことは把握できる。さっき竹若くんはそれを利用した。
状況的にはこちらが不利だけれど、メリットもある。
私は感情が顔に出にくいし、思っていることを素直に言えない。でも彼は、本来なら零れ落ちたものを拾い上げてくれる。
もし竹若くんが「もう関わりたくない」と突き放してきたら、私は受け入れるしかない。数値によって日常に支障をきたすのは、彼ばかりだ。
でも、まだそばにいていいのなら。あなたの時間を私にさいてくれるうちは、独り占めしたい。
私は望みを伝えなければならない。自らの声で。
「正直、怖い……二人きりになるのが」
相手の肩がピクッと反応した。
私は偽りない気持ちを口にする。
「きっと『抱きしめて』ってねだってしまう。もっと触れてほしい、私もあなたに触れたい、って……。お願い、よく考えて。少しでも厄介だと感じるなら、降ろしてほしい。竹若くんには、私の面倒を見る義務なんてないんだから」
放り出されたほうがマシだ。強要するぐらいなら。
ここから先に踏み込めば、彼はもっと誠実に接してくるだろう。
私は、なんとか言いたいことを伝えられてホッとする。
すると竹若くんは上半身を起こし、驚きの顔を向けた。ステータスを確かめたらしく、目を細める。
「たしかに俺は自由だ。芝辻さんと関わりたくなければ、そのとおりに行動するだけのこと」
私の胸がズキッと痛んで、思わず膝掛けを握りしめる。言葉にされると、想像以上にこたえた。
「……うん。だから、もう――」
「それは、俺が関係を断ちたい場合でしかない」
「え?」
竹若くんが熱い眼差しを注いでくる。
「この状況から引き返すのは、芝辻さんが俺を拒絶したときだけだった。でも、同じことを望んでくれた」
いきなり伸びてきた腕にグイッと引き寄せられ、私は彼のキスを受けた。何度も唇が重なり、我慢できないというふうに舌を入れられる。
「んんっ」
深い口づけをしたあと、脱力した私に、竹若くんは言い切った。
「帰さない」
私は恥ずかしさに視線を落としつつ、コクッとうなずいた。
車は知らない街を走り、五階建てのマンションの駐車場に停まった。
降りると、竹若くんがこちらの手を引いて目的地へ導く。エレベーターの中では互いに無言で、手を握る強さがすこし痛かった。
三階で降りて、二戸目のドアを開いて中に入る。
1Kのキッチンを通り過ぎ、奥の部屋へ連れていかれた。ローテーブルとテレビの間を通って、ベッドの前まで。
そこで相手が振り返り、不意に安心した顔になる。
「よかった。いざってときに嫌がられなくて」
私はクスッと笑った。
「あんなキスした責任を取って」
竹若くんがわずかに顔を赤らめる。ぎこちなく腕を伸ばして、触れる口づけをしながら抱きしめた。
やがて舌で絡み合う。
頭がぼうっとしてきたころ、竹若くんは私をベッドに横たえて見下ろしてきた。まだ現実感がない。
彼が衝動をこらえる顔をした。
「俺、余裕なくてヤバイ」
「私も頭が働かない……。ねぇ、電気を消して」
「ダメ。逐一、数値をチェックする」
「そんなことされたら恥ずかしくて死んじゃう」
「いまから、それどころじゃなくなるよ。どうやら芝辻さんは嫌じゃないみたいだし?」
「……ずるい、竹若くんのバカ!」
なじったのに、相手は表情を和らげた。
「そう言いながら、あったかい心させてるほうがずるいと思う。遠慮しなくていいんだよね?」
彼を非難をするより先に、唇をふさがれた。
私は相手を押し返すつもりが、しがみついている。
首筋を舐められながら身体をまさぐられた。彼が大胆に両胸を揉む。服越しなのに敏感に反応してしまう。
竹若くんがこちらのブラウスのボタンを外し、キャミソールと一緒に肩から下ろした。ブラと肌があらわになる。彼は、鎖骨や胸の谷間にキスを落とした。
背中に回った手がホックを外し、乳房をじかに包む。手のひらからあたたかな体温が伝わってくる。
勃ち上がった先端をいじられ、私はビクッと跳ねた。
口づけと愛撫でどんどん溺れていく。
気付いたときにはストッキングとショーツを脱がされ、足を開いた状態で秘部に触れられた。
「さっきより濡れてる。そんなにこうしてほしかったんだ?」
「わ、分かってるくせに……意地悪!」
「恥ずかしがる表情がたまらない」
指がズプッと中へ侵入してくる。私は思わず「ああっ!」と叫んだ。
出入りによってクチュクチュといやらしい音がした。
「や、ダメぇ……!」
「ここ、すごく熱い。俺を誘惑してるんだよね?」
「これは竹若くんのせいなの。は、激しくしないで……!」
「おかしくなって」
やすやすと追いつめられ、思いきり昇りつめた。
余韻のはざまで、秘部が指を何度も締め付ける。
私は相手によって一糸まとわぬ姿になった。次いで竹若くんもスーツを脱ぐ。それから自身に避妊具をつけ、ふたたび近づいてきた。
熱意のこもった目で私を見つめ、キスをしてこちらの足を開く。
互いのそこが触れ、グッと埋めてくる。
久し振りの行為に私の身体は戸惑うが、気持ちが満たされて、つらくはない。最奥部まで到達するのをまざまざと感じた。
竹若くんが眉間を険しくしている。私は小さく声をかけた。
「大丈夫?」
「それはこっちのセリフ。痛くない?」
「うん。気持ちいい……」
素直に答えると、竹若くんがぶわっと真っ赤になった。
「このタイミングで言う?」
「え、おかしい?」
「なけなしの理性が吹き飛ぶ」
ゆっくり倒れ込みながら抱きしめてくる。そしてかすれた声で。
「動いて……いい?」
私はうなずきで応じる。
竹若くんがじっくり出入りする。私は相手にしがみついて、我慢できずに喘いだ。
徐々にスピードが上がって快楽も大きくなった。こちらの思考を容赦なく崩していく。
ゆとりのない行為のすえ、私は無我夢中で叫んだ。
「竹若くん、もういっちゃう……っ!」
「俺も、くうっ」
奥まで貫かれて、目もくらむような閃光が散る。私が達すると同時に、相手も果てたのが分かった。改めてしっかりと抱き合う。
私には見えないけれど、ステータスは落ち着いただろう。
この募る心を除いて。
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