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誰かの祈りが届く頃
興味がないものを無理やり見せられる、というのはたまらなく苦痛なことである。ましてやそれを見たあとで、作文を書いて提出しろなんてなんて言われているなら余計にだろう。
「うっわ、かっけえええ!」
「そこ、博物館内では静かに!」
「すんまっせーん!……でもかっけー……!」
クラスメートの男子数人が思わず歓声を上げ、先生に注意されていた。何で男っていうものは、どいつもこいつも乗り物と武器に弱いのだろう。私はうんざりした気持ちで、目の前のパネルと模型を見つめた。どうせ修学旅行に行くというのなら、奈良や京都といった観光名所を巡りたかった。ああいうところならおみやげもの屋さんもあるし、アイスクリームだって売っている。少しは楽しんで回ることができたというのに。
今年、N小学校が訪れることになったのは、よりにもよって博物館だった。それも、隣県に出来た新しい“平和のための博物館”とかいうものである。つまり、戦争を扱うものばかりが展示されている場所だ。隣県だから泊まりと行ってもちっとも“旅行している”気分になれないし、そもそも科学館と違ってレバーを操って仕掛けを動かすようなものもない。ただじっと、展示を読むだけ、模型を見るだけ。美術館の絵を見るよりはマシだが、それでも私にとっては退屈以外の何物でもないのだった。
ああ、せっかく外も晴れているのに。あの綺麗な青空の下で、芝生の公園でキャッチボールでもしたら絶対楽しいのに。何で自分達は、こんなクーラーの効いた薄暗い部屋で、何が面白いのかもわからない展示品を見ていなければいけないのだろう。ソフトボールクラブに入っており、とにかく運動することと遊ぶことが大好きな私である。勉強も嫌いだし、特に作文なんて大嫌いだ。もっと言えば、社会科だって好きな科目じゃない。かっこいい乗り物!があればそれだけでテンションの上がる男子達と違って、まったく気分も乗らずのこうして展示コーナーでぼんやりし続けているのだった。
「めんどくさい……」
子供も楽しめる博物館を謳っているだけあって、展示パネルに書かれた内容は全てルビが振ってある。難しい言葉も使われていない。しかし、読みやすい内容だからといって興味を持てるかどうかは別問題なのだ。
「戦争なんか、もう終わったことじゃん。なんで、いつまでもそんな昔のこと勉強しないといけないの。戦争は悪い事でした、もうやりませんってなったんでしょ。それでいいじゃん……」
ぶつぶつとぼやく私の目の前には、どこぞの戦争で使われたらしい灰色の船の模型がある。どうやら、海の上で戦うための船の一種らしい。駆逐艦、という何やら怖そうな名前だが、実際は戦艦と呼ばれるものよりずっと小型であったそうな。そして、駆逐する、というのはあくまで“潜水艦のようなちっさな船”をデストロイするという意味で名づけられたとかなんとか。全部、目の前のパネルに書いてあることである。
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