誰かの祈りが届く頃

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 もうこのあたりの文章を丸写しして、作文の文字数を稼げばいいかな。私はそう思ってスマホを構えた。写真撮影をするな、という注意書きもなかったし、パネルと模型の写真を取るくらいは許されるだろう。 「戦争なんぞもう、終わったことか。まあ、今の子供達にとっては、そのような認識になるのも詮無きことか」 「!」  突然降って湧いた声に、私はぎょっとして隣を見た。いつからそこに立っていたのだろう。白い軍服のようなものを着た、私とさほど変わらない年頃に見える少年がそこにいる。帽子をかぶっているので髪型はよくわからないが、耳やうなじから見える様子から察するに相当な短髪であるようだ。ひょっとしたらほぼ坊主頭なのかもしれない。 「……誰?」  思わず、口に出していた。 「博物館でそんな不謹慎なコスプレ、怒られても知らないよ?」  戦争なんかもう過去のことだ、と思っている私でも、未だにタブー視されていることが多いのは知っている。平和のための博物館、と銘打った場所で、旧日本海軍っぽいコスプレをして歩くのはどうなのだろうか。これが大人ならスタッフのサービスかと思ったかもしれないが、相手はどう見ても小学生か、あって中学生程度の少年である。今日が平日であることも鑑みるならば、自分と同じように修学旅行出来た小学生ということも考えられなくはない。いずれにせよ、見つかったら先生に怒られること請け合いだ。 「そのような心配は不要だ。貴様と会話できているだけで奇跡のようなものなのだからな」  少年はまだ声変わりも済んでいない高い声で、それでいて随分と傲岸不遜な物言いをする。言っている内容は、なんのことだかさっぱりわからないが。 「これも何かの縁だ。貴様、何故戦争は終わったこと、学ぶ必要などないと思うのか。怒ったりなどせん、私は寛大だ。忌憚無き意見を述べてみよ」 「へ、へ?」 「思った通りの考えを言えと言っている」  なんだこいつ、変な奴だな。そう思いながらも、不思議と大人を呼んでこようとか、無視しようという気持ちにはならなかった。偉そうな物言いに反して、少年の声が随分優しく聞こえたというのもあるかもしれない。 「……私、勉強得意じゃないから、あんまよくわかってないけど」  おずおずと、私は口を開いた。 「ポツダム宣言?とかいうので大きな戦争が終わって。で、そのあと日本は、もう二度と戦争はしませんあれは間違いでしたーって裁判があって、悪い人たちが裁かれて、武力を持たないっていう法律を作ったんでしょ。で、それから実際日本は戦争に一切関わらなくなったでしょ。それってもう、終わったことってことじゃん?」 「そうか」
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